硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
2。

 どうかしてる。この城の常識は、つまり非常識。それは現在進行形。
「おはようございます」
 真綿の中に埋もれ、ぐっすりと眠っていたあたしは、その言葉に目覚めた。うっすらと開いたぼやけた視界に、映る物は何も無い。・・・何も、無い、けれど。
 ・・・おはようございます? って、聞こえたな。今。何故、あたしにそんなことを言う人がいるのか。言葉も存在も、全ておかしいわよ。・・・どゆこと?
「!」
 そうだ! あたしは今、超非常識人の住処にいる!! と思い出し、あたしは慌てて起き上がった。柔らかくて沈み込むようなベッドの感触に、そんなことは忘れてたけど。すっかり癒されてしまって・・・って、馬鹿馬鹿。あたしの馬鹿ー! 何やってるんだよ。おい!
 と、自分を詰ってから、あたしは目を丸くした。・・・あれ? 何で貴方達、またいるの?
 それは昨夜、風呂で見た・・・いや、顔が違う。似てるけど、同じ人種っぽいけど、別の人達だ。何だ。何をしに来た。お前達。・・・嫌な予感。
 と、顔を顰めたあたしに、笑顔の彼女達は言った。
「お食事の準備が整いました」
「お着替えはその後に」
「先に髪を梳かしましょうか」
 あほーーー!!! と、危うく朝から叫びそうになった。
「そそそ、そんなこと、全部自分で出来るからーー!!」
 それよりも、勝手に部屋に入ってこないでよ! 不法侵入よー!
「落ち着いて下さい」
「お気を確かに」
「大丈夫ですから」
「あんた達のせいで大丈夫じゃなくなってるんだってば! それを、あたしが狂ったみたいにフォローするなー!!」


 そして一時間後。あたしはもそもそと食事を済まし、着替えさせられ、髪を好きなように結われている。彼女達に全敗中のあたし。
 てか、もう一体どんなことになっているの? あたしの髪。これ、どうやって取るのよ。今日帰る・・・というか、抜け出す予定なんだから。あんまり複雑にしないでよ。貴方のテクニックは、よーっく分かりましたから。
 そうは思っていても、鏡の中。カツラを被った方が早いんじゃないか? と言うくらい複雑に編み込み編み込み編み込まれてしまったあたしの髪の毛。痛くも痒くもない貴方のテクニックには脱帽です。で? ピン、これ何本差した? 二十本まで覚えていたけど、その先は手先が早すぎて最早お手上げ。絶対自分じゃ取りきれない。困ったなぁー。
 しかしあたしの胸中など誰も察してくれることはなく。やがて鏡の中に、引きつったあたしとその鏡を笑顔で覗き込むメイドさんが出来上がり。
「はい。出来ましたよ」
「・・・わーい。ほんとだー」
 もう、どうにでもして。そんな泣き笑い。
 その後ろでは、一列に並んだメイドさん達が盛大な拍手をしていた。




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