硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 6。

 絶対抜け出してやる。当然だろ。冗談じゃない。だからあたしがこんな事をするのは、これまた至極当然のことである。許せ。再び・・・の再び、脱出しようとも。
 ちなみに二回目の脱出は誰も知らない内に失敗と相成りました。しかーし! ここに来て成功に一歩前進! 行け! 付いて行け! あたし!!! あの子達はきっと、あたしを前進させてくれる。
 あたしは鼻息荒く、ガッツポーズを取って頷いた。出来れば使用人限定のエリアに入り込んで貰いたい。きっと外に近いに違いない。それだけに、もしターゲットの部屋に行くとしても、出てくるまで待っている価値は大有りである。
 と思い、尾行開始。いくつかの角を曲がり、一つの階段を下り、そして彼女達は一つのドアを開き、その中に入っていきました。
 パタン。そしてそこにはドアの閉まる音と、あたしだけが残る。
「・・・うーむ」
 それを陰から見送るあたし。完全なストーカーである。怪しさ満載。しかし本人は大真面目なわけでして。
 やっぱりターゲットか。ちぇっ。ちょっと待つか。と、花瓶の棚の横に座り込み、彼女達を大人しく待つことにした。五分。微動だにしないあたし。まるで犬のよう。自分で言うのも何だけど、こんなあたしは珍しい。
 そして、十分。・・・二十分。
「・・・おい」
 しーん。何のイベントも起こりません。
 おいおいおい。
 何をしているのか。こんな中途半端な時間に食事でもないだろうに、一向に出てこず三十分。こんなゲームがもしあったら、消費者は怒り心頭であると思われます。それ程に、ただただ暇。飽きてきた。
 ううう・・・何だろう。どうしたんだろう。
 そう思いながらも、しょうがないからひたすら待っていた。それ程までに、唯一と言っても良いほどのチャンス到来だったのだ。絶対逃すもんか! という、意地でもあった。ここまで待ったんだから! という、ある意味貧乏性だからでもある。
 しかし何も変わらず四十分。シーンとした沈黙に気が狂いそうになり、意地も貧乏性も消え失せ、疲れと怒りがやってきたあたし。そんな自分に焦りを覚え始めた頃でもある。
 不意にその、問題のドアが開いた音が聞こえてきた。
「!」
 やっと出てきた。ややや、やったぁー。と、怒りだけは消え失せ、疲れを覚えつつ立ち上がる。顔には多分、僅かな達成感も浮かんでいただろう。さぁー。脱走再開。と、気持ちを新たに陰から顔を出した。こんな所でしくじるわけには行かないと、慎重には慎重を期してそーっとそーっと伺って・・・。
「彼」を見て目を丸くする。
「・・・はい?」
 そう。扉を閉めたのは、何と「男」だったのである。彼はどこぞへスタスタ歩いて行くが、それを呆然と見送るあたし。ぽっかーーーーん。である。そりゃそうだろう。
 あたしは再び座り込み、両手を頭の上に乗せて唸った。
 混乱。何故混乱したかというと、男と言う他、見るに明らかな「コック」が出てきたからである。それ、何の意味があるの? と聞きたくなる、長くて邪魔そうなコック帽を被っているから、間違いない!
 ・・・いや、違った。問題はそこじゃなかった。それ以前に彼女達ではないと言うことが重要である。どういうことだ。あの部屋を使っているとは考えられない・・・だろう。彼女達が入っていった事も含めて。そして、全然関係のない仕事をしているコックが出てきたことを考えても。
 ・・・もしや。
 とととと。と、ドアに近付き耳をくっつけて向こうを伺ってみる。音、無し。よし。と思い、開けてみて・・・。
 しばし沈黙。あたしは口をポカンと開けたまま、そのドアの向こうを「見下ろした」。
「・・・分かり辛いドアを付けるなーっ」
 やがて思わず、小声でだが口からその言葉が零れる。そこには、下に続く階段が続いていた。



 あたしの感覚からすると割合に広い石階段を、足音を立てないように気を付けながら下る。そして、やっと階下に着いたあたし。顔だけを覗かせると、そこにはシーツやらタオルやらカーテンや等の布類が置かれた棚が並んでいる、灰色の部屋。人気はない。どうやら、ここは倉庫兼通路として使われているらしい。
 一番下まで下りて、それらを見上げた。どれもこれも綺麗に整頓され、清潔な香りがする空間。居心地悪くない。あたしにとっては、さっきまでいた部屋よりも落ち着きそうな気すらする部屋。
 ふーん。舞台裏って感じね。やっぱりどこにでもこういう風景はあるってことか・・・。
 そんなことを思いながら物色するように見ていたら、不意に物音がした。階段からじゃない。自分の向かいの壁と、左側の壁の向こうの方にあるドア。その内の、向かいのドアの向こうから。誰か来る。まずいっ。そう思い、慌てて階段に戻った。
 その瞬間、ドアが開く。陰に隠れ、足元だけ見るに、女。顔は見えない。
 足の向きがこっちを向いている。階段を使いに来たんだろうか?




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