硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 神様は、弱き清き者の味方である。しかし、試練もお与えになる厳しいお方であるらしい。それに動揺している人間を見て、神様頭を抱えているのか、それとも笑っているのか。
 笑ってるんだと思うなぁ。あたしだったら笑っちゃうなぁー。
「食事の用意をさせるから、すぐに戻れ」
 優しさかその反対か、リスはそんなことを言ってあたしが今歩いてきた道を指さした。
「無理」
「何で」
「帰り道不明」
 返事が素っ気ないのは、リスが気にくわないとか、そういうことではない。とにかくお腹が空いて、喋るのも面倒臭くて。・・・たはー。すまぬ。
「・・・ここを真っ直ぐ戻って・・・」
「覚えられない」
「覚えろ」
「やだ」
「馬鹿」
「黙れ」
「帰れ」
「無理」
 そんなやりとりを経て、ただ今部屋に強制送還中。いや、任意同行中の方が正確か。
「本当に呆れるよ・・・」
 そうため息を付きつつ、リスは決して足早に歩こうとはしない。フラフラしているあたしが、横にいられる速度で歩いてくれる。
 その手には何やら文字の詰まった書類。もしかしたら仕事中か、さっきの場所で客との取引でもあったのかも知れない。それなのに送ってくれる意味は、優しいとか、呆れたとか、そういうことよりも多分「品位を下げないための努力」故だと思われる。賢明だ。お前は。
 ・・・まぁ・・・ちょっとは優しいこと、ちょっとは認めて上げても良いよ。ちょっとだけね。
「無駄に広すぎるんだよ」
「減らず口だけは減らないな」
「だって、通路分かり辛すぎるよ」
「・・・こういうのには、色々意味があるの」
 ため息混じりに答えるその意味を、敵が攻めてきた時に捲いて逃げやすいようにとか、歩く時間が社交の場になるからとか、それがステータスになるからとか、そう言う理由だったと知るのはもっともっと先の話。
「・・・でも、さぁ。そんなんだからさー」
 客も困るだろうなぁ。そう思い。
 ・・・客。あたしは唐突に使用人達の通路から入って来た男を思い出した。もしかしたら、その客かも知れない・・・なんて、きっと正常だったら思わなかった矛盾だらけの推測故。そして「お客さん、従業員用の出入り口から入ってくることになるんだよ・・・」と、独り言。
「・・・は?」
 その言葉に、リスがあたしの方を向く。それが分かっていながら、あたしは足元を見ながら俯いて答えた。
「正面玄関からじゃ、きっと面倒だったんだよ。あたし良く分かるー」
 そう言い切った瞬間。
「・・・あれ?」
 隣を歩く足音が唐突に消える。視界の隅にあった、彼の足も。
 不思議に思って顔を上げ、ちょっと後ろを振り向くと怪訝な顔をしたリスが立ち尽くしていた。どうかした? 早く行こうよ。腹限界。あんただって、あたしに早く帰って欲しいでしょー?
 しかし最初に二人の間に生まれたのは、リスの声。
「・・・お前、何の話をしている?」
 その口調は、まるで初対面の時の様な少し高圧的な言い方。
「え?」
 言葉の質じゃない、喋る人の人柄が表れる部分の変化を、それは再び遂げていた。あたしは少し、戸惑う。
「・・・何?」
「誰が、従業員用の入り口から入ってきたって?」
「・・・え・・・と、やだなぁ。何、そんなマジになってるの?」
「答えろ」
「・・・」
 ああ、これか。と思う。人種の・・・そう言っても過言ではない違い。ただ、傲慢だけなだけでも威張っているわけでもない。命令をし慣れた者が発する雰囲気。
 疲れていたあたしは、それに訳もなく屈する。
「だから・・・お客さんでしょ? メイドさんが敬語使ってたよ。でも、まずいとは思ってたんじゃない? コソコソと・・・あれ? でも、恋仲だったみたいな・・・・・・あーっっっ!!!」
 唐突に、あたしは我に返って口を手で塞ぐ。やばい。まずい。フラフラとあっちこっちを歩き回り、従業員用の通路にも潜り込んだことを言ってしまった! と思って。
「ちがっ。これにはふかーーーい、高い・・・とにかくデカい訳が!!」
 海よりも深く、山よりも高い・・・と言い掛けて、名詞が飛んだ。意味不明な言葉になってしまった。空腹ってヤツはこれだから。
 いやーっ。時間を五分戻してー!! と、顔を覆って叫んだあたしに、聞こえてきたリスの声。
「男か」
「え? あ、はい。・・・わっ。いや、ちが・・・ああ、その、だから恋仲って・・・あ、違う。ああ、あたし何も知らない!」
 答えようとする本能と、これ以上余計なことを言っては行けないと言う気持ちが足を引っ張り合っている。冷静に聞けば答は明確だったけど。
 リスは、その冷静だったらしい。何も言わずに次の質問に移る。
「顔は」
「見てない! ・・・じゃなかった。何も知らないってば!」
「ちょっと来い!」
「ひえっ」
 やだっ。怒らないでーっ。と、あたしは恥も外聞もなく叫んだ。




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