硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 5。

 ねぇ、神様。今、あたしを見てる? ・・・どんな気分? 笑ってるの? それとも、ドキドキ? ハラハラ? あたし? あたしはもう疲労困憊です。でも、頑張る。佳境ですから。・・・佳境ですよね? あ、気が付いたら終わってた。みたいな感じ?
 つんつん。と、つついてみた。・・・反応無し。
 ・・・つんつんつん。
「何やってんだ。お前」
 上から降ってくるのは、リスの呆れたような声。
「・・・死んじゃったの?」
「ンな訳ないだろ。気絶しているだけだ」
 そう言って、剣を納めた鞘で指した先には大きなたんこぶ。ああ、これですか。彼の意識を吹っ飛ばした原因。
 うへぇー。痛そう。そう思いながら肩を竦めていたら、ドアの開く音がした。
「どうかしたんですか?」
 東の要人の、付き人の一人が部屋から出てきた。そして、伸びた男を見て目を丸くする。
「・・・確認を」
 リスはそう言って、鞘で腕章を差した。それに反応して、男の顔が瞬時に曇る。
 彼と目が合うと、リスは頷いた。大丈夫。そのやりとりは、あたしに伝わるくらいに明確で。
 ・・・何故だか、とても安心した。悔しいくらいに。
 それを合図に、男が一人だけ部屋から出てくる。何かを部屋の中に告げて。硬くドアを閉めて。
 近付いてくる彼の顔は、まるで凍ってしまったように張りつめて動かない。顔色もさっきまでとは違い、緊張なのか僅かに白くなっていた。
 その雰囲気に押され、あたしは慌てて立ち上がり、リスの隣に移動する。そして二人から一歩下がった場所で、それを見ていた。
「見覚えは」
 リスは仰向けに転がし、付き人の男に問うた。
 彼は、無言。まるで射抜くような鋭い視線で男の顔を見る。しばらく動かずに、じっと。
 そしてやがて彼は顔を上げ、あたしとリスを一度ずつ見てから、言った。
「・・・ありません」
「・・・そうですか」
 と、リスの声。それはあらゆる意味で大きなトラブルにならなかったことを心からホッとしているような、気の抜けた声だった。彼の責任感を、垣間見た瞬間。さっきの安心感の理由を、見た気がした一瞬。
 しかしまあ、そんなことは明確ではないので。というか、ぶっちゃけ認めたくもなかったので。
 その隣であたし。ああ、良かった。間違いじゃなかったみたい。ははははは。なんて思いながら、へらり。不釣り合いなほど気の抜けた笑顔で、やっと肩の力を抜いた。




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