硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 6、一難去りかけ、また一難。

 何かは始まり、何かは終わる。それを繰り返し、繰り返し、あたし達はここにいる。
 でもその終わりと始まりは、綺麗に揃わないことも有るのが人生。

 騒ぎを聞きつけ、メイドさんが走ってくる。そして、小さな悲鳴を上げた。倒れた男を見て、気絶しかける者もいる。うわー。あたしみたいに突っついたりしようとする人は一人もいない。
「兵を連れてこい」
 鞘を手に持ったまま、リスが命じる。偉そう。・・・とは相変わらず思うけど、さすがに様になっているとも思った。だからこそ、その雰囲気に、すべきことを思い出させられたのだろう。
「は、はい!」
「ただ今!!」
 気絶しかかった同僚のことも気遣いつつ、メイドさん達は毎度の如く羊のように群れて移動していく。寄せては返す波のよう。
 ・・・うーん。凄い。凄いぞ。あたしは安心感も手伝ってか、妙に感心してしまった。



 そして僅かな後。あたしは、兵二人に男が意識を失ったまま持ち上げられるのを見ていた。
 その横には、ずっとリス。付き人は部屋に戻り、兵を連れてきた三人のメイドさんもそれを見守っている。
「・・・お疲れ」
 リスの声が聞こえてきた。そして、肩に置かれた手。あたしを労ってくれる気持ちは、全てから伝わった。
「すまなかった。危ないことに巻き込んで」
「・・・ううん・・・」
 見慣れない一面に、ちょっと心が疼いたあたし。ハラハラと似た、不快にも似た感情。だってこの感情は、ちょっと苦しい。悪くは、無いんだけど。
「よ、良かったね」
 それを誤魔化すようにそう言うと、リスは多分、ちょっと笑って頷いた。そんな微妙な表情に、また何かが疼く。その表情を、笑顔だと察してしまった自分に疼く。変だ変だと思う自分が、余計動揺を誘いもする。・・・だから。
 そうだ。きっと、だから・・・。
 だから。きっと、だからだろう。あたしは、その感情に・・・夢中になって。
 そしてきっとリスも、すっかり忘れていた。二人居て二人とも見過ごしていたのは、何も見えないことに、安心していたから。それは一つの終わりが、あたし達の目を塞いでいたから。きっと、安心という名の何かが、視界を狭めてしまったのだ。何もない、訳ではなくて、見えなかった、だけなのに。
 気付かなかった。手遅れになるまで。ほんの僅か、遅くまで。
 男を見る。ああ、終わったんだなぁ。何はともあれ、何事も無く済んで良かった。・・・と、決して長くも大きくもなかった緊張の時に別れを告げようとして・・・。
「ん?」
 気が付いた。男の指に、光る金の指輪。きらり、と光ったそれに、強い刺激を受けたあたしの記憶。
 ・・・あれ?
 人差し指に。どこかで見た、気がする・・・そのリング。同じ様な、リング・・・。でも、違う物だった。あれじゃない。あれじゃなくて・・・。
 どこで? そう自分に問いかけ、記憶の中に確かなそれを見付けた時。
 急に、聞いたかどうかも朧気だった音が、確かなものとして甦った。記憶の底の、底。まるで深海のように暗闇の中から音だけが聞こえて・・・きたのは小さな小さな、金属音。誓いの言葉を言った後、響いた小さな音。あれは二人のリングが、触れ合った・・・音、なんだ。そうだったんだ・・・。
 と、理解する。手を合わせれば、同じ指が触れる。「彼女」も人差し指に、リングをしていた・・・。ということは。
「レイラ様」
 駄目。違う。まだ。まだ、だ。
 まだ終わってない。そうよ。彼をこの中に入れた者が、まだ残ってる。メイドとして、何にも疑われることなく、堂々と。
 この中に。
「レイラ様・・・?」
 残ったメイドさんが三人。あたしを気遣うかのように恐る恐る声を掛けてくる。
 その内の一人が、あたしの手を取った。とても柔らかい力で。まるで、その指のリングを誤魔化すかのように。
「大丈夫ですか?」
「・・・リス・・・」
 その呼びかけは、多分彼女達には理解出来なかっただろう。
 不思議そうな顔をした、二人のメイド。そして、あたしに飛びかかってきた一人のメイド。
 間に合わなかった。




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