硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 ねぇ、神様。これ、神様の仕業? だとしたら神様、相当悪趣味だ。
 酸欠のあたしは腕が一瞬離れても逃げることが出来ず、再び彼女に囚われの身となってしまった。でもしばらくは、そんなことどうでも良いから生きろ! と酸素吸入をしていたあたし。
 よって、どういう流れでそうなったのかは不明だが意識が割合正常に戻った時、彼女とリスはこんな話をしていた。
「行動が早いな。裏付けを取ろうとかは思わなかったのか?」
「こういうことは早いほうが良いですから。そうは思いません?」
「・・・早さよりも確実性を取るべきだったな。こと、今回は」
 そう言って、リスはあたしを見る。「何? 何の話?」と、あたしはリスと彼女の腕を見比べた。
 そのあたしを指さして、リスが言う。
「間違いだから」
「・・・はい?」
 あたしと彼女の声が綺麗に重なる。
「そいつ、ちょっとした手違いで連れてこられただけだから」
 あら? 何? あたしのこと? そうだ。そうだよね。それなのに何故あたし、こんな事になってるの?
「な、何ですってぇー!?」
 ブルブルと、彼女の腕・・・いや、体が震えている。ななな、何だ、一体?
「本当なの!?」
 彼女は、また腕の力を強めてあたしに言う。ぐえっ。だだ、だから、何が。苦しいって! はーなーせっ。
「死ぬぞ」
 リスが助け船(?)を出し、彼女が慌てて力を弱める。今度は勿論、腕を離しきったりはしなかったけれど。
 ぜぇぜぇ。何なんだ一体。と、また酸素吸入に勤しんでいたあたしに、彼女は再び言った。
「答えなさい! 本当なの!?」
「え? だ、だから何が・・・?」
「貴方、クリスロット王子の婚約者じゃないの!?」
「違うよ」
 あっさり否定なあたし。そして、何だ何だ。そんなつまらないことで、こんなにゴタゴタしているのか。と、今更気付く。さっきはやむを得ず使った言い訳とはいえ、それが出回っているとしたらとんでもない迷惑誤情報だ。爺さん(硝子の靴の片方を蹌踉けて壊した、リスんとこの執事のことである)にでも聞いたんだろうか? そんな訳の分からないことを言うとすれば、思い当たるのは彼だけだ。だとしたら、あの爺さん。絶対ぼけてる。そんなボケ老人の戯言を真面目に受けるんじゃないよ。全く。
 首には未だにナイフが突き付けられているが、疲れとか、空腹とか、呆れとかでそんなことは忘れてしまったあたし。もー。やっとれんわー。・・・な気持ちで大きなため息一つ。はふぅー・・・。
「そ、そんな・・・」
 がくがくぶるぶる。さっきよりも大きな振動が伝わってきた。彼女が「マッサージ椅子にでも座っているのか?」と問いかけたくなる程に震えている。異常だ。異常事態だ。おおおい? どうした? 大丈夫か? ・・・って、いうか・・・。
「・・・あのー・・・」
 だらだらだらだら・・・。首筋を伝っていく、血の感触。ヒラヒラドレスにそれが染み込み、あたしの左側が赤く染まっていく。
 彼女はそのつもりなどなかったのかもしれないが、ぶれる程に震えているせいであたしの首に傷が付いた。だらだらだらだら。物凄い量の出血をしている気がするのは気のせいですか? あんまり痛くはないけど・・・いや、痛っ。やっぱ痛い! 血を見たら痛みが神経に伝わったようだ。いたたたたっ。痛いっ。やっぱりメッチャ痛い! てか、ああああ、あんた震えるのは勝手だけど傷口えぐってない!?
 あたしは思いっ切り叫ぶ。
「あのーっ!!!」
 びくっ。その声に、後ろの彼女が強張る。そして右側から、あたしの顔を覗き込んだ。
「な、何よ」
「ちょっと確認させていただきたいんですけど、貴方右利きですよね。きっと。右利きの方が人間、多いですもんね?」
「・・・そうだけど、それが何よ」
 彼女は、怪訝そうな顔をしながらも大人しく答える。ショックが大き過ぎたのか、それともあたしの声に驚きすぎたのか。取り敢えずそれら、何らかの作用で大きな峠を越え、彼女冷静になったようです。と、あたしは分析。それ程までに急にぴたっと震えは止まり、あたしの言葉を大人しく聞き入れる。
 あたしも努めて冷静に言った。
「じゃあ申し訳ないんですけど、もうちょっと制御の利く右手にナイフ持ち替えて貰えません? ガンガン突っつかれて血ダラダラなんですけど」
「え?」
 そう言って、彼女は自分の左手を見る。・・・血塗れ。
「ぎゃっっっ」
 だから。ぎゃっっっ、じゃねーだろ。と、あたしは思う。何度も言うけど、あんたのせいでこうなってるんだってば!!! ちょっとは学習せいや!!




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