硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

「初めて」は、何の為にあるのだろう。ドキドキする為? 驚く為?
「全くもう・・・」と、呟きながらもリスにその場を譲り、背を向け、メイドさんはあたし達から一番遠い場所にトレイを運んだ。窓の近くのテーブルへ。
 あたしから見ると右側だ。そしてそのまま、僅かな音を立ててメイドさんはお茶の準備を始める。
 振り返る気配はない。あたし達の会話を邪魔しないようにという配慮なのだろうか? 有り難いが悲しいことに、そんな必要は無いことも事実である。
「大丈夫か?」
 ベッドの脇で、リスがそう言った。あたしは前を向いたまま、チラリとメイドさんの背中を見て彼女が見てないことを確認してからリスに小声で愚痴る。
「大丈夫じゃない。怪我は何でもないけど」
「それなら良かった」
 そう言って、リスは安心したように目を細めた。そんな優しい顔は初めて見た。怪我人になると、普段は見えない一面を見ることが出来るんだなと気付く。
「悪かったな」
 そう言って、リスはあたしの手を取って、それからベッドの脇に膝を着いた。あたしは、リスを見下ろすようにして首を振る。
「別に・・・気にしないで」
 そうしてから、あたしは気付いてメイドさんの背中を見た。彼女は作業をしていて、こっちは見てない。見ないようにしているのかも知れないけれど。
 ・・・まあ、良かった。さっき必要がないと言ったが、やっぱり必要だったようである。アッチコッチ向いて首振って、こんな所を見られたらまた怒られるからね。・・・う。でもやっぱり、あんまり大きく動かしたり一定以上右側を向くと確かに傷が開く・・・気がする。取り敢えず痛い。
 そしてちょっと顔を顰めたあたしに気付いたのか、リスは立ち上がってあたしの首を覗き込んだ。
「お前にとっては大袈裟かも知れないけれど、少しの間は我慢しろ。綺麗に治らなかったら大変だ」
「跡は残らないって言ってたよ」
「それは、ちゃんと治療をした場合の話だろう」
 そう言って、リスはあたしの髪を指でどけた。そして包帯をマジマジと見つめる。
「見たって分からないでしょ」
「ちょっと消毒液の香りがする」
「ああ、そうね。凄い量の消毒液を使っていたから」
「あれが綺麗なナイフだとは限らないからな」
「・・・」
 そう言われると・・・そう、かもしれないけれど・・・。
 うん。分かってはいる。みんな心底心配してくれて、出来る限りのことをしてくれて。それが嬉しいから大人しく従っているんだし、だからこそ大したこと無い傷だと思うだけに申し訳ないとも思うし。・・・複雑。
「・・・早く治ると良いな」
 リスは願うように、そう言った。その感情は皆と同じ。偽りが無いからこそ、戸惑ってしまうほど綺麗な感情。向けられて気分が悪いはずがない。
 だから「ありがと」と、言いかけた。・・・あたしの首に。
 彼は、その願いを押しつけた。





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