硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 4。

「初めて」は、何の為にあるのだろう。ドキドキする為? 驚く為? 人を、成長させる為、とか? 免疫を付ける為、とか?
 十日目。最初の二日間が嘘のように何も無い、何もしないことをするばかりの日常。
 怪我の治りに比例するのか、あたしの首に巻かれた包帯は日々薄くなっている・・・気がした。初日も苦しくもきつくもなかったが、今はまるで包帯を巻かれているという違和感がない。傷はまだほんの少し引きつりを感じるけれど、確実に完治に近付いていることを実感する十日という時間。
 そんな風に、あたしの世界は僅かに変化しつつ過ぎた。思い出せば長かったような、あっと言う間だったような・・・。


 そよそよそよ。そんなことを考えながら久しぶりに触れる外の空気を、あたしは小さく吸い込んで、そして深く吐き出した。あー。気持ちが良い。
 目を閉じる。そして全身で太陽の熱を感じた。ここに来るまでに、どんなに大変だったか。そう思うと感慨深いってもんである。

「外に出たい」
 今から一時間ほど前、ボソッとそう言ったあたしを見てメイドさんは怒り心頭。メイドはこんなに怒るものだったか? と言うほどに、最近慢性的に怒っているメイドさん。
「駄目です! 駄目ですー!!」
 お前は何の権利があってそんなことを言うんだ!!!! と、反論したくなるのを堪えに堪えて、あたしは項垂れた。しゅん・・・。の雰囲気を、これでもかと醸し出して。
「う・・・」
 その態度にメイドさんが怯む。ここぞとばかりにあたしは言った。
「ちょっとだけで良いからー・・・」
 顔を上げないままのあたしの小さな呟きに、暫し沈黙のメイドさん。
 そして大きなため息の後、彼女はこう言った。
「分かりました。医者に確認してきますので、『絶対に抜け出そうなどということは考えずに、ここで大人しく前を向いて』待っていて下さいね!?」
「・・・」
 ありがとう。と思う。あたしの下手な演技に乗ってくれて。・・・ちくしょう。

 ま、その結果無事にお許しが出て、庭までは出ることを許された。思えばここに来て二日目に、自作の脱出道具で壁伝いに降りた庭。案外簡単な道程で来れることが判明。
「もし気分が悪くなったり傷が痛んだら、すぐに大声で呼んで下さいね」
 あたしを先導してくれたメイドさんは、そう言った。そんな状態の人間が、こんなに広い城の中にいるメイドが気付くほどの大声が出せるのが不明である。ああ、相手があたしだから、そういう訳の分からないこと言っても良いと思っている訳? そうな訳?
 そう思っていたら、極めつけはこれだ。「お庭の外に出ようなんて思わないで下さいね。信用してますからね。門番にはきつく言っておきましたし、出られませんよ。絶対。先に言っておきますけど壁は出られない形になっていますからチャレンジして怪我を増やすようなことは絶対にしないで下さいよ。お一人にして差し上げますけれど、もし何かあったら次回は完全包囲の状態での日光浴になることをよーっく覚えておいて下さい、ねっ!?」
 ・・・もう返す言葉もありません。何ですか? その剣幕。それ、怪我人に言う言葉ですか? どんだけ信用がないんだ。あたしは。・・・しょうがないけど。


 なんにせよ、外に出れてばんざーい・・・。ぼけっとしながら、そう思った。ここ十日間、まるで動けなかったせいで体のあちこちが痛い。走り回りたいとか、芝生の上をゴロゴロ回りたいとか、そういうことをベッドの上で考えていたあたしは、結局何もせずに木陰でウトウト。もー、気持ちが良くて・・・。
 そよそよそよそよ。ぽかぽか・・・。
 空から落ちてくるのは、鳥の鳴き声。木漏れ日。葉擦れの音。ウトウト・・・。
 それから、声。
「こんな所で寝たら、今度は風邪でベッドに縛り付けられるぞ」
 薄目を開けると、あたしの顔を覗き込んで笑っているリスがいた。





戻る 目次 次へ 
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。