硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 6。

「初めて」は、何の為にあるのだろう。ドキドキする為? 驚く為? 人を、成長させる為、とか? 免疫を付ける為、とか? それともなければ・・・えっと・・・。
 あ。そっか。分かった。多分、これが答。「続く」から。
 その後、リスの家族の話や生い立ちや、同じくあたしの生い立ちを話した後、思い出したようにリスは言った。
「そういえば、この間の二人さ」
 それはリスに殴られて倒れたアホと、あたしの首を傷付けて連れて行かれたアホのことである。
「某貴族の親戚みたい」
「貴族?」
 何それ。どういう関係があるの? と、明らかに「分かりません。意味が。全然」という顔をしたあたしに、「しょうがないから説明してやる」という具合でリスが説明してくれた。
「要は・・・あわよくば、自分達の一族の誰かを王族に入れようと思っていたらしいんだよね」
「・・・?」
 しかしまだ理解には至らず。へー。ほぅー? ・・・で? それが何? それで何? 勝手に入ればいいじゃないの。ガンガン入っちゃえば良いじゃないの。とでも言いたげなあたしのキョトンとした顔に、リスは呆れたような顔をして「お前意味分かってないだろ」とため息混じりに呟いた。
「つまり、俺と彼等の一族の誰かを結婚させようとしてたの」
「・・・結婚?」
 結婚。その言葉をもう一度心の中で繰り返して、あたしはやっと理解する。ああ、王族に入るってそう言う意味なのね・・・。と。
「・・・ははぁー」
 そうか。なるほど。なるほどねぇ。分かった。そりゃー、あたしみたいのがひょいと入ってくれば驚くかもね。席は一つだし。未だ信じられないけど、一応嫁候補って事になっちゃってるからなぁー。かなり限定した一部でのみだけど。良い加減、間違いにみんな気付よと思うけど。
 ・・・ふむふむ。だから巻き込まれたのか。と、あたしは大きく頷いた。実際には手違いとか間違いとか勘違いの産物なのにねぇ。張本人達が一番有り得ないと思っているのに。
 そもそも大体、足が25センチだったってだけなのに。・・・って、改めて言うと、とんでも無い理由だな。ホント。とんでも無いって言うか、最早情けない。
「それで婚約発表とかされると手遅れになるからって、とにかくお前を浚おうとしていたらしいよ」
「それはまた傍迷惑な」
 その呟きに、再び呆れ顔をあたしに向けるリス。「お互いにな」「何だと?」という会話が目で交わされたのは・・・多分気のせい。それとも無ければ、あたしの被害妄想の産物だ。
「・・・多分もっと秘密裏に事を運ぼうとしていたんだろうけど」
 リスは他人事のようにそう言う。
「お前にばれてるのが分かって二人とも慌てたんだろうなぁー」
 でなきゃ男も女もあんな所で暴れるわけがない。と呟いたリスに、激しく同意。そりゃ、そうだろうね。あんなことして一番足を引っ張られるのは自分たちだからねぇ。ってことは何よ。あたしの脱走劇(結局不発)が相当役に立ったわね。あたしのお陰ね。
 ・・・ま、そもそも問題の起爆剤となったのもあたしだったんだけどさ。
「仕事は問題のないメイドだったんだけどな・・・」
 大事にならなかったからこそ、そんなことを言っていられるんだろう。リスは素直にちょっと傷付いた表情で言う。
「それで、あの二人って付き合ってるの?」
「・・・」
 またその手の話か。と、これまた呆れたような顔をしたリスは、首を横に振った。
「えー? 違うのー? 何だー」
 つまらん。と、呟いたあたし。つまらないとか、そういう話じゃないだろ。というリスの言葉が聞こえる。怪我までして。と。
「お前が聞いた、誓いの言葉な」
 リスは呆れ顔に拍車を掛けて言った。
「お互いに裏切りません。っていう意味しかなかったらしいよ」
「・・・」
 ああ、そう。そんだけ。
 あの言葉にときめいていた、あたし。一人、お馬鹿じゃないですか。そう思い、ため息を付いた。





「さて。もう行くかな・・・」
 話が一段落してリスはそう言い、城の方を見る。
 その間を流れる風。揺れる緑。小鳥の囁き。日の光。
 穏やかだ。ここは、全てが静かで優しい。いつも。
「あれ? 仕事中だったの?」
「そ。お前が見えたから来ただけ」
 そしてリスは「じゃあな」と、立ち上がり掛けて。
「一番大事な話を忘れてた」と呟くと、あたしの方に向き直った。
 あたし達の間に、大事なことなど一つでもあったか? と思いながら聞き返す。
「何?」
「怪我の具合、どうなの?」
 リスはそう言って、自分の首を指さした。
 怪我? 思わずそう聞き返して、その途端。
「・・・あ!!!」
 思い出す。何故忘れていたんだろうと思う程すっかり忘れていた、こっちこそ大事なことを思い出す。
「寄るな! 馬鹿!!」
 そして思いっ切り、大きな声で叫んだ。つまり、これが「寄るな」という気持ちをこれでもかと表しているのである。
 あたしは多分、悔しいけれど真っ赤な顔をしていた。彼に最後会った日、触れたことを思い出して。
「は?」
「触るな! もーっ。このセクハラ野郎!!」
 すると、リスは納得したように笑って頷く。
「ああ、何だ。あの、おまじないのこと言ってるの?」
 そう言って、彼はまた自分の首を指さした。・・・は?
「お・・・おまじない?」
 そんな簡単なことか? あれはっ。と言うよりも早く、リスはあっさりと頷いて、こんな事を言った。
「そうだよ。早く治りますようにってね。今日もしてやろうか?」
「ばばば、馬鹿! いらんわ!」
「何だよ。そんなに赤くなって」
「怒りで頭に血が上ってるのよ! 分かれ! それ位!」
 上流階級のお方達は、そんなことをざっくばらんにするんですかー!? と、叫びたくなる気持ちを察して欲しい。それでなくてもあたし、こう見えてもシャイなんだからね! もぉぉー!
 そんなじたばたを見て、リスは呆れたように呟いた。
「・・・ふーん。お子様だなぁー。そんなことにギャーギャー言って。ま、別にどうでも良いけど」
「・・・う・・・」
 そ、そう言われると、何だか情けない・・・。くそう。
何なんだ。この敗北感。そう思い、唇を噛みしめていたあたしの顔を覗き込み、リスは言う。
「取り敢えず、見せて。あ、包帯薄くなったな」
「・・・ま・・・ね」
 見せるだけなら、ただだ。そして彼には、それを見る権利が・・・まあ、ある。そう思い、むしろ言い聞かせ、しょうがないから見せて上げた。リスは前回のように髪を指でどけて、そこを覗き込む。・・・やだ。くすぐったいから止めて。言いかけて、そんな自分に照れた。これじゃ、さっきとは違う意味で女の子みたいだ。包帯のせいだ。絶対薄くなった包帯のせいだ。この間は、何でもなかったのに。こんな所ばかりケチりやがって!
 そんな下らないことを考えてはいても、体が素直に痺れた、気がした。
 僅かに震えた、あたしの体に気付いたんだろう。リスは小さな笑い声を漏らす。
「やっぱり、おまじない。しておいてやる、な」
 そして、からかうようにそう言って。
 あたしの首に、キスを落とした。




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