硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 おまじない。そう言えば、全てが済んでしまう気がする。それで済むなら良いけど。
 ・・・済む訳無い。何故? どうしてもーっ!
 それは三日後。包帯が取れて三日後。
 三日、だった。たった三日、だった。後から数えてみると長いような短いような、そんな三日の後。
 ここに来てから、あたしの中の時計はおかしくなっているようだ。時計だけじゃない。あたし自身も相当おかしくなってしまった。ここには魔物が住んでいるに違いない。ちくしょう。そもそもあの爺さんと硝子の靴と兵のせいで・・・っ!
 などとズルズル過去を思い出した結果、初心に返った。いつまでも、このままでいられるかっ。あたしは攻めの女だったはずだ! 自分を取り戻せ! てか、さっさと逃げれば良いんだ! そうだ!
 と、自分に言い聞かせ、性懲りもなく抜けだし、脱出ルートを捜していたあたし。布団をはねのけてから、約一時間後のことである。
 そしてしょうこりもなく、またまた迷ったあたし。再び空腹と戦うことになってしまった、あたし。「勘弁してくれー」とか呟きつつ、ウンザリしながらとぼとぼ歩いていた。
 ・・・ら、未だにどこだか分からない所でリスと遭遇してしまった。
 いや、あたしは空腹と戦うことに夢中で、またしてもリスをスルーしようとしたようで。その肩を、リスがポンと叩いたというのが本当のところ。
 そして顔を上げ「げ」と思っても、逃げることも出来なかったあたし。逃げて、どこに行くというのだ。再び迷うのか? 嫌だ。そんなの。だから悔しいけれど「うぐぐぐぐ」と、リスを睨んだあたし。
「・・・お前、なぁ・・・」
 そのあたしを見て、何をやっていたか察したらしい。ため息を付いて、リスは歩き出した。
「また怒られるぞ」
 付いてこい。そう、その背中は言っている。
「慣れたもん」
「そう伝えておいてやる」
「嘘っ。嘘です! 止めてっ」
 返ってきたのは、笑い声。ちぇっ。王子には言いたい放題なのに、どうしてメイドにはやられたい放題なんだ。あたし。
 そして他愛もない会話をしながら歩く廊下。次の約束も、聞かれて困る話も何も無い。こんな、もんだ。あたし達は。会わなければそれで済む。話さなくても、それで済む。そんなもんだ。あたし達二人。大体、あたしはここにいること自体がおかしい人間。ウロウロして、隙あらば逃げだそうとしている人間。
 でしょ? そうでしょ? ・・・それなのに。
「じゃあな」
 部屋の前。いい加減見慣れた廊下の上。
 そう言ってリスは、油断しきっていたあたしに、おまじないを落とした。
 それは、あまりに自然すぎて。まるで当たり前で。
 少なくともあたしにとって、そう見えて。

 分からなくなる。一層。
 どうして彼は、あたしに触れるんだろう?




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