硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 価値観の違いってヤツはね。結構厄介なものだと思うの。それを許し、それを下げ、もしくは上げ、摺り合わせ。同意するため、人は頑張る。時々。たまに。・・・人によって。場合によって。
 しかしどんなに必要だとしても、やっぱり同意出来ない事もある。さて、その場合の対処法って、どんなものでしょうかね?
「あー・・・っと」
 あたしは迷った末・・・。
 迷ったというか、訳が分からなくて困っていたと言うべきか。おかしな事を言ってるな、こいつ。しかもマジらしい。そう思いながら、ただ単に呆れて暫し無言の後。
「断る」
 と、キッパリ返事をした。仕事が惜しくないと言ったら嘘だ。けれどリスクの方が大きい・・・香りがする。くんくん。うん、間違いない。
 あたしは自分の鼻・・・基、勘を信じた。その手の勘は結構働く方なのだ。それがこの後、立証されるのは嬉しくとも何ともない事なのですが、今現在のあたしには分からない話なので放っておいて。
「・・・そう? うーん・・・」
 対してリスは、困った顔をして唸った。いないと面倒だとかその程度の言い草だったくせに、多少は必要な仕事だったらしい。本当に困った顔をしている。
 そう思うと申し訳ない気持ちも感じ・・・なくもない。う。お世話になっているのに、お役に立てませんですいませんでしたね。と、心の中で謝罪。
 しつつも、結局は拒否のままのあたし。やだ。行かねぇ。行きたくない。行くもんか。むしろそう言う気持ちが大きくなる、天の邪鬼なあたし。
「・・・じゃー・・・入れば?」
 僅かな時間に何の反応もない事で、あたしの気持ちが変わらないことを察したのか。やがてリスは、そうドアに向かって声を掛けた。それに従って、ドアがゆっくりと動く。
 分厚いが故に音など絶対漏れないと思っていたが、外の人物はちゃんと聞き取ったらしい。どんな野生動物だ。と思いながら、それを見て目を丸くしたあたし。
 ・・・の前に現れたのは、なんと爺さんだった。
「わっ」
 思わず驚いて声を上げてしまう。まさかまさか、あたしが手を引いてすっころんだ爺さんが、あんな声を聞き取ったとは。と。一体何者なんだ。お前は。そう思う。
 しかし爺さんは何事もなかったかのように、すすすいと進んできてあたしに言った。
「こんにちは。ご機嫌は如何ですか? レイラ様」
「最悪です」
 と、素直に答えるあたし。全ての元凶である爺さんを目の前に、嘘でも良いと言えるかってんだ。
 それを聞いて、爺さん笑った。
「相変わらずですねぇ。ふぉっふぉっふぉ」
 ふぉっふぉっふぉ、じゃないよ。全く。
 と、言いかけて止めた。ここは冷静に、冷静に。無駄口なんか叩かず、相手の出方を見ることにしよう。ホント、この爺さん何考えているか分からないんだから。
「さて、お仕事の話に戻りましょうか」
 本来ならリスの横なり後ろから話すのが本当だと思うが、彼はあたしの真横に来て、挙げ句そんなことを言った。何だ何だ? と思い、座ったままなので見上げるあたし。それが、リスには聞こえないように取り引きする為だと知ったのは、ほんの僅かな後のこと。
「もう、お断りしましたけど」
「いいえ。貴方は断れません」
「・・・」
 またか。
 またなのか。爺さん。何故、あたしを暇だとか仕事引受人になるとか、勝手に決めるのかね。どういう権限があって君ぃ。
 駄目だ。拒否だ。ここは絶対拒否だ。でなかったら、結局暇人と認めてしまったみたいな現状同じく、言いなりになってしまう。
 その意志を硬く固めたあたしに、彼は小さな声でこう言った。
「レイラ様。硝子の靴のお値段、ご存知ですか?」
「!?」
 ぎょっ。ななな、何だいきなり。何を言い出すんだ。この爺さんは!
 あたしは素直に動揺して肩を震わせた。爺さんは、まるで悪い話を持ち出すかのように、更に小声であたしに言う。
「良くありませんよ。他人の物を壊しておいてそのままというのは」
「あああ、あれは、ちがっ。だ、だって貴方だって壊したでしょー!?」
「事故です」
 いけしゃあしゃあと、この。
「あたしだってそうよ!」
「兵を蹴っ飛ばして壊したのは事故ではありません」
「・・・」
 あがあがあが。そうだったね。そう、だったかもしれないけど・・・。
「い・・・幾らなのよ」
 爺さんにつられてか、あたしはビクビクしながら小さな声で問うた。借金を背負うことに怯えていたせいかもしれない。
 もう、詳細にはどんな物だったか覚えていない。でも慣れたとはいえ、今でもため息が出るほどの物がごっそり置いてあるこの城の物。一文無しにも等しい、あたし。そりゃ怯えて当然なのである。
 そのあたしに、爺さんは人差し指を立てて見せた。・・・一? 一か。
「・・・十・・・いや、えと・・・百・・・万とか?」
 そこなら何とかなるかも。と思いながら、しかし引きつってそう言ったあたし。ふるふるふる。と、爺さんは首を横に振る。
「・・・一千・・・うえ・・・一千万・・・なの?」
 それじゃ、返し終わった頃にあの世行きなあたしである。・・・返せるかどうかも定かじゃない。
 しかし爺さん。また首を横に振る。
「・・・嘘」
 億ですか? 億なんですか!? という意味を込めて、あたしは引きつったまま、爺さんと同じ「一」を出した。それはつまり、もっと上? という手話だったわけですが。
 ニッコリ。爺さん微笑む。その瞬間、あたしの頭が真っ白に・・・。
 基、白旗を振っている自分が見えました。ええ。




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