硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 14、自己満足。それは人にとって結構大事な物でして。

 人が無意味だと思うことに意味を持つ人もいれば、その逆も然り。
 それからあたしは急造な淑女になるべく、お勉強をさせられることになった。畜生と思っても結局、一億という大金の前に屈せずにいられなかった、あたし。人間てヤツは弱いもんですよ・・・。
 ・・・はい。「庶民だから」の間違いですね。畜生。
「レイラ様」
「あ?」
 机の上でワインリストと格闘していたあたしは、その声に顔を上げた。憎き、あいつの声だ。あの爺さんの声だ! そう思った瞬間、散々叩き込まれた「はい」は「あ?」となった。物凄い変化である。
「いけませんなぁ。返事は『はい』でしょう」
「すいませんねぇ。人を見てしまって」
 あたしのその言葉に、肩を竦めた爺さん。いい気味。ふふふんだ。こちとら、貴方にまで礼儀を払う義務はなくってよ!
 ・・・と、思って我に返った。おいおい。言葉が変になり始めているよあたし。なくってよって何だ。なくってよって。
「まあ、あなた様は変わられないことも良いことでしょうけど」
「・・・おい」
 一生懸命勉強しているのに、この言われよう。くそっ。
 と、悪態付いて気が付いた。やっぱり全然変わってなかったようです。これで満足か。けっ。
 ・・・とは思っても、そこまで口に出したらお終いだ。多分、別の人に怒られたり叱られたり注意されたりするだろう。いやいや。怒られるの嫌い。
「・・・というか、ね」
 あたしはリストをヒラヒラさせながら言う。
「あたし、未成年なんですよ。ワインの名前なんか覚えても、しょうがないと思わない?」
「思いません」
 一蹴。
 爺さん、理由も感想も何も言わず否定である。 
「は・・・あああ、あのねぇ・・・」
 そう言われて。
「はあ。さいですか」と言ってしまいそうになって、あたしは慌てて首を振ると、気を取り直して言いかけた。あんたねぇーっ。と。
「・・・と?」
 しかしその抗議の言葉は、爺さんの後ろのドアから、おずおずといった具合に現れたメイド服に驚いて引っ込んだ。別にメイドさんに何を聞かれても構わないけれど・・・ビックリして。
 いや。後々考えると理由は多分、それだけじゃなかった・・・と、思う。だってこのメイドさん、変・・・だったのだ。
 だから驚いたのだ。きっと。何がと言う訳じゃないけど。ハッキリ言葉で言えるような事じゃないけど何か・・・。
 何か、変、だった。絶対、変だったのだ。敢えて言うなら目には見えない・・・そう、仕草や雰囲気が。
「し、失礼致します」
 彼女は深く頭を下げて、呟くようにそう言う。
 そして可哀想なほど居心地悪そうに肩を竦め、よりによってあたしと爺さんの間に立った。うーん。箸より重い物は持ったことがないと言われても納得してしまいそうな、か弱さがビシバシ伝わってくる。ここのメイドさんらしくない。一般的なメイドさんらしくはあるけれど。
 ・・・そんなもん知らんけど、多分。
「え? な、何?」
 そんな彼女に向かって。
 そして爺さんに向かって、そんな疑問が口から付いて出る。もう全てにおいて「一体何なの?」である。あんた達、一体何なの?
 しかし爺さん、ひたすらマイペース。こっちの動揺も疑問も全て無視して、彼女の前に腕を伸ばし、こんな事を言った。
「レイラ様。紹介させていただきますね。今日からお世話係をすることになった、シュリアでございます」




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