硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 人が無意味だと思うことに意味を持つ人もいれば、その逆も然り。結局人ってのはさ。自己満足が必要な生き物なんだよね。
「・・・」
「・・・」
「では」と、紹介を終えるとさっさと出ていってしまった爺さん。彼は必要なことから省く人間らしい。もっと色々することがあるだろ! と思う。それなのに全てを省いたせいで、残された二人は暫し沈黙。ひたすら沈黙。
 部屋に残された二人。ワインリストを持ったままのあたしと、手を前に合わせて肩を竦めているメイド・・・さん?
「・・・えええ・・・と。あの」
 あたしが声を発すと、彼女は怯えたようにぴくん、と肩を震わせた。ななな? 何よ。今までのメイドさんと随分感じが違うじゃないの。あの乱暴で煩くて群れるメイドさん達と・・・いやいやいや。感謝はしているけれども、それはそれで真実だからして。
 その乱暴でも煩くもなさそうな、群れてもいないメイドさん。歳は二十歳前後くらいだろうか? あたしと同じか・・・ちょっと上か・・・いや、下? ああ、分からない。そんなに歳は違わないだろうというだけしか、分からない。メイドさんにしては、若い方だといえるだろう。きっと。
 取り敢えず言えることは、とてもスタイルの良い、綺麗なメイドさんであるということである。メイドにしておくのが惜しい。勿体ない。メイドさんとあたしを取り替えた方が良いような気がする。うん。明日、そう言ってみるか。そう思ってしまうほどに、彼女は可憐で美しい。女のあたしが、見ほれてしまうほど美しい。
 いやしかし、その格好もとっても似合ってましてよ。と、思う。綺麗な人は何をしても綺麗だ。そう。つまり庶民は何をしても庶民なのであるよ。ったくよー。納得いかないである。
 そう思いながら、あたしは言った。
「あのー・・・それであの・・・何をしに・・・いらっしゃったんですか?」
 メイドさんにこの言葉遣いはどうかと思うが、中途半端な進化を続けているあたしはおかしな事を口走ってしまう。
 そう気付いたのは、彼女の変化を認めてから。彼女は、その言葉に目をまん丸くしてあたしを見る。そして、クスリと笑ったのだ。まるで大輪の花が開いたかのように、美しい表情。
「初めまして。レイラ様」
 そして最初の強張ったような表情とは一転。優しく笑って彼女は言う。
「今日からお世話係をさせていただく、メイドのシュリアと申します。精一杯つとめますので、宜しくお願い致します」
 そしてシュリアは、深々と頭を下げた。そのお辞儀の仕方は、あたしが怒られ怒られ怒られていたお辞儀の正に見本。あらまぁ。美しい。
 見惚れてしまい、ポカンと口を開けたあたしを見てシュリアは、また笑った。




【幕間】
「クリスロット様。レイラ様にお世話係を紹介して参りました」
「ああ、そう・・・」
 自室にて。
 リスは書類から目も離さず頷いた。いつもこうだ。彼は、いつも。
 それだけ多忙であると言うことは、城の誰もが・・・いや、「あの庶民」以外は、みんな知っていた。
 現在、リスは現国王の裏方と言っても良い立場にいた。実際、国政の殆どを管理している。表には出ず、目立ったことは何一つしなかったけれど。
 これは、実は二十歳を超えた王子の義務であるということを知る者は殆どいない。
「誰を当てたの?」
 何かを書き込みながらリスは問う。いつもなら余計な話を全くといっていい程しない彼が、珍しい。
 そう思いながら執事は答えた。先程レイラに言った、彼女の名前を。
 ・・・その瞬間。
「!?」
 部屋をなめらかに滑っていたペンの音が消えた。
「・・・え?」
 そう呟くや否や、ペン先がグキッと音を立てた。が、それにも構わず、目を丸くしたリスは顔を上げる。
「今、何て言った? シュリア? そう言ったのか?」
 もう殆ど書き上げていた書類に、インクが染みて広がっていく。しかしリスは全く気にする様子もなくそのままだ。
 彼にとっては珍しい反応。そして素直な反応。思わず笑ってしまいそうになる。
 その顔を俯き隠して執事は頷いた。
「左様でございます」
「・・・な、何・・・? ちょ・・・っちょっと待てよ!」
 バン! と、机を乱暴に叩いてリスは立ち上がる。その弾みで書類が崩れたが、リスは気にする様子もない。
 ヒラリヒラリと数枚、舞い落ちた書類。その隙間に、リスの声が響いた。
「何で、あいつが戻ってきてるんだ!?」
「何で、と申されましても・・・」
「ふざけるな! どういうことだ!?」
 その質問に、困ったように首を傾げる執事。肩を竦めて、しかし言葉で応える気は無いようだ。しばらくの間、何の言葉もない。
 それを見ていたリスの戸惑いは、やがて確信に変わった。怒ったように釣り上がった眉の下に強い視線。その意味するところは、恐らく誰の目にも明らかだろう。
 しかしやがて、まるで根負けしたかのように、リスは肩を落とし、頭を抱えて呟いた。
「お前の仕業だな。余計なことばっかりしやがってー・・・っ」




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