硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 4。

 人が無意味だと思うことに意味を持つ人もいれば、その逆も然り。結局人ってのはさ。自己満足が必要な生き物なんだよね。例えば言い訳。例えば理由。
 こんな時に限って会えない、あいつ。どこに行っても会えないったらない、あいつ。うー・・・いるのか? この城に。そんなことすら思うほど、全く会えない会えないで一週間。こんな時に限って影も形も見あたらない一週間。彼女が来始めて、同じく一週間。

「お願いだから、とにかくレイラ様は止めて下さい。これこれ、この通り」
 冷静な話し合いの末、彼女が毎日来ることを知ったあたしは頭を下げてそう言った。彼女と一緒に居るだけで、出来の悪い自分を見せられているみたいで切なくなってくる。そんな彼女に「レイラ様」と連呼された日には・・・たまりませんよ。本当に。
「・・・わか・・・分かりました。じゃあ・・・れ・・・レイラ」
「はいはい」
「何か御用は?」
 ・・・結局、余り変わってない模様。そんな貴方にがっかりです。
「・・・・・あのね・・・。じゃあ、頼みますけどね」
「はいっ」
 ニコニコの彼女に、申し訳ないが言ってやった。「その敬語も止めて下さい」と。あなたのそういう態度はとっても正しいのかもしれないけれども、庶民はそういう対応されると困るのよ。こう、背筋がこう・・・ムズムズするっていうかさぁ。分かる? 分かるでしょ? 分かったあなたは庶民に決定。
 そのあたしの目の前でオロオロと上品にうろたえている彼女は、庶民でもなければメイドにも相応しくない。どうしてこうも、ミスキャスティングが多いのかと思う今日この頃。
 その彼女は一週間経った現在。あたしのことを「レイラ」と呼ぶも、結局言葉遣いだけは余り変わらぬままである。そういう子なんだと、諦めと共に受け入れ始めてきているあたし。人間、慣れるもんである。
 しかし慣れて気付けば、即席令嬢に向けての良い「練習」になるのだ。意外や意外。これは助かる。彼女の言葉を真似していると、何となくお嬢様の言葉に慣れてきた・・・気がする。そんな気分になるのだ。馴染んでくるというか。
 まあ、あくまでも気がするだけ。実際にはそう変わっていないだろう。でなきゃ、「言葉使い教室」(勝手に命名)であんなに怒られるもんか。ちぇっ。ちなみに「言葉遣い教室」というのは、かつて王子停止機能を備えていたこの悪い口の矯正レッスンのことである。一億という敵の前に屈した日から、始まったいわば治療。まああたしは、そんな毎日を過ごしているわけです。

 さて。「会えないし怒られるし、怒られるし、怒られるし・・・全部あいつのせいだ。全くもう・・・」なんてブツブツ言いながら、あいつに会う為、あてもなく歩く廊下。如何に怒られているかお分かり頂けるだろうか。それもみーんな、あたしに言わせれば「あいつ」のせいなのである! ったく、もう! おまけに話をしたいときに限って会えやしない! どうなってるんだ一体!
 そして端から見たらどうしてそうなるのかお分かり頂けないであろうが、あたしは歩きながら急に顔を顰めた。むむう。どこに隠れやがった。さてはあたしの知らない場所にいるな? ここは広くてもう・・・本当にもう・・・なんだから。くそっ。ブツブツブツ。とか思って。我ながら、本当に矯正レッスンに通っているのか自分、と、疑わしくなる心の声。
 そのあたしの背中に、女の声が掛かった。
「こんにちは。レイラ様」
「こん・・・」
 ・・・にちは。と、言いかけて止まる。罠である。これ、罠なのだ。何度引っ掛かってお叱りを受けたことか!
「ご・・・御機嫌よう・・・」
 と、振り返りちょっと引きつった顔で挨拶をした。
「宜しい。慣れてきましたね」
 と、微笑む「言葉使い教室」(だから、勝手に命名)の先生。・・・ほーらね。ほーらね。罠だった! この先生、何度この手であたしを引っ掛けたか! というか、あたし何度引っ掛かったことか! それはそれは、アホなくらい引っかかったものです。
 もし仮にこの時「御機嫌よう」を言わなかったらどうなるか。ガミガミ怒られて、何度も謝った末「御機嫌よう」を十回言わされるのです。しかし十回で終わると思ったら大間違い。もっと優雅に! もっと可愛らしく! とかいう物言いが付いて、その数は無限に増えていくのであります。疲れます。そんなに繰り返してどうするんですか? と言いたくなります。それを、あたしは当然何度も経験したのであります。もうベテランでありますのです。・・・何だか変になった。元に戻そう。
 で、よって、そんなことをされ続ければ、いい加減慣れるという物だ。そして今回は、どうにかお叱りを免れた模様。やったね。
 ・・・あが・・・。
 だがしかし、今はそんなことにホッとしている場合ではなかった。そんなこと、一瞬でどうでも良くなった。何故なら。
 あがあが。開いた口が塞がらない。だって、その後ろに笑いを必死に堪えているリスがいたのだ。何たるタイミング。最低。最悪。
 ああああ、あいつ! いた!! ってか、あいつ! 何笑ってんのよ! 誰のせいでこんな事になってると思ってんのよーーー!! こんにゃろーーーー!!!
「う・・・ぐぐ・・・」
 しかし、危うくそう叫びそうになって、あたしは自分を必死に押さえた。だって、まずい。こんな言葉聞かれたら殺される。殺した方が早いと思われる。絶対。
「では、また授業で」
「は・・・はい・・・ほほほ・・・」
 しかし、どこまでも自主規制が出来るわけがない。そう言って先生が去った後、あたしは勿論、無言でリスの胸ぐらを掴んだ。当然でしょ。そこまで我慢出来るかってんだ!!!!!


 しかしリスは涙目で、まだ笑っている。この期に及んで、まだ笑っている。どうやら引きつったあたしの笑顔と「どもり」が相当おかしかったらしい。
「ご、御機嫌ようだって。ははははは」とか言いながら、肩を震わせて笑っている。
「しょうがないでしょ! 誰のせいでこんな事になってると思ってんのよ!?」
 そのリスの胸ぐらをガンガン振って、あたしは叫んだ。ストレスたまってんのよ! 殴らせなさいよー!! と、騒ぐ。暴れる。ギリギリまでためていたストレスという名の風船は、王子という針によって呆気なくパチンと割れたわけです。はい。
「ば、馬鹿止めろって」
「馬鹿!? どの口がその言葉を吐いてんだ! この大馬鹿王子がー!」
「・・・お前、さぁ。その位で止めておいた方が良いと思うよ?」
 殴ろうとしたあたしの手を取って、その起爆剤であるリスは諭すように言った。何? その偉そうな態度!?
「何をだ! ああ、止めたるわい! 何でも止めたるわー!!」
「あの先生、地獄耳だから・・・」
「レイラ様!!!??? 今の、レイラ様の声!?」
「聞こえてるかもよ? あ、聞こえてるわ」
 リスがそう言って、可笑しそうに笑う。
「そそそ、それを・・・」
 それを早く言えーーーー!!! と、思いっ切り叫びたかったが、ここで叫んだら墓穴を掘るだけ! あたしはリスの手を掴み、とにかく先生から距離を取るため、彼女が去った反対側に向かって走り出した。




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