硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 15、だから、うん。良いんじゃないですか。自己満足。

 例えば、誰かのために頑張る。それって美学?
 庶民なあたし。王子なリス。そんな忘れるはずのない事実は、この時あたしの中から綺麗サッパリ消え失せていた。関係あるかーい! である。理解していようとも、関係があったことなんて一度もないしこれからもない!! あるかーー!! である。
「あたしの(借りている)部屋で存分に気が済むまで殴らせろ!」
 だから、これが正直な気持ち。殴ってやる。気が済むまで殴りまくってやる! その気満々な、あたし。そこには一割も一分も一厘も偽りの気持ちなど無い!! あるかー! である。
 しかしそう言ったら、リスはどうしてか物凄く青ざめた。そして、らしくなく強引に腕を引いて、あたしの体ごと引っ張り叫ぶ。
「やだ! 絶対行かねぇ!!」
「え? ・・・は?」
 一方あたしは、その反応にビックリ。引っ張る力も怒りも吹っ飛び、目を丸くしてリスを振り返った。何? どうしたの? そんな反応、予想外なんですけど。ぽかーん。
 いや? そりゃ、殴らせろと言ったよ。言った。確かに言った。そして、その言葉の通り殴るつもりだったよ。ええ勿論当然。十割満タンの気持ちでそう思ってた。
 ・・・でもさ。それにしても何か、おかしくない? あなたのビビリ方、異常ですよ?
「何、そんなに青ざめてるの?」
「いい、行きたくないんだよ! お前の部屋には!」
「・・・?」
 何を言っているんだ? こいつ。今まで好きな時、好きなように来ていたくせに。・・・そりゃー、用事があればだけどー・・・。
 変なのー。あたしはマジマジとリスの顔を見つめた。
「どうかしたの?」
「ど・・・どうかっていうか・・・」
 そう言われて、さすがに自分の行動がおかしいと気付いたらしい。しまった、とばかりに僅かに顔を顰める。
 しかし、やっぱり理由も何も言おうとはしない。結局彼は、困ったように視線を逸らしただけ、だった。顔を覗き込んでも逸らそうとするだけ。しばらく黙って気まずい時間を流してみても、リスは全く応える気配がない。こっちを見る気も話す気も、全くなーんにも無いようだ。その気配皆無。
 うーん? どうしたんだ?
 それを待っていたあたしは、しかしやがて諦めた。別にさしたる興味がなかったというのも理由の一つだが、他にもしようと思っていたことがあったから。
「・・・? まー。良いや。じゃ、ここで話すわ。ちょっと大事な話もあってさ」
 そう言って、あたしはリスの手を離した。無人の廊下。あたしの部屋が近いからシュリアとかメイドさんが通りかかるかも知れないけれど、別に構わないっか。と、開き直って話し出す。
「・・・話?」
 話が変わったことにホッとしたのか、リスがそう言ってあたしを見た。そしてやっと、正面から向かい合う、あたし達。
「うん。あのさ。あたしね。思ったんだけど」
 隣国に行く時さ。シュリアを連れていった方が良いと思うよ? 知ってる? シュリア。凄いお上品だし綺麗だし。文句無いよ。全然問題ないよ。その話を、するつもりだった。本来だったら邪魔の入らない場所でするのが普通とも思うが、もうこうなったらしょうがない。そのつもりだったけど、無理っぽいし。
 というか、そこら辺はどうでも良いやとばかりにどうでも良くなってしまったあたし。ええ。大雑把で悪ぅございましたね。だから向いてないんだってば。お嬢様仕様には。だからこその、この提案。
 別に、あたしは嫌味とかショックとか、そういう意味で言っているわけではない。本心でそう思うのだから仕方がない。そこら辺は割り切った女である。それに何よりも、リスの負担が一番少ないのが良いと思うのだ。冷静に考えれば、それが一番あらゆる意味で相応しい。
 よって、これはあたしの希望であり要望。努力で方向を変えようとする精神は好きだけど、如何せん時間はないわ適役はいるわ出来る気がしないわじゃ話にならない。こと、国単位の催し物だから幾らあたしだって真剣になる。
 だからこれは、言うなればアドバイスでもあった。庶民はきっと、何だかんだ言って賢明なのだ。金と権力が無い分ね。
「何?」
 不思議そうなリスの声。
 そして、その顔を見上げて思った。彼はいつも、こうやってあたしを見る。これが当たり前だと思う自分が、きっと本当は一番おかしい。
 そんな明確ではない違和感から、さっきのリスのように目を逸らし、勢いに任せて話を続けた。
「あのさ・・・シュ・・・」
 そのリスの向こう。視界の片隅に、小さな影が映った。視線を向けると、僅かに見えたスカートの裾。
 シュリア、シュリア。そう思っていたからだろう。きっと。
 ・・・あれ?
「シュリア?」
 それがメイド服だと分かって、あたしは思わず呟いた。




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