硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 例えば、誰かのために頑張る。それって美学? ・・・いえいえ。とんでも無い。これっていうのは結局、自己満足なんですよね。
「なななな? 何? 何が起こったの!?」
 担がれて押し込まれた。
 ・・・らしい。我に返って、そう理解した。
 浮遊感を味わった後、気が付くとあたしは部屋の中にいた。あたしの部屋・・・に、似てるけど違う部屋。閉め切ったカーテンは光を遮断し、薄暗い部屋の中には、しかし埃の匂いなどは一切しない。使っていない部屋のようだが、まめに掃除をしているのだろう。
 置かれている家具や配置は、あたしの部屋とほぼ同じ。けれど色合いが大分違う。
 色が違うだけで、随分雰囲気が変わる物だ。あたしの部屋は茶とベージュ、白で構成されている。落ち着きや安心をくれる色合い。しかしここは、パステル調の緑とオレンジ。爽やかで元気が出そうな気のする色合いだ。もっと明るかったら、きっともっとそう思っただろう。
 ・・・いや、部屋はどうでも良かった。隣に息を切らしているリスを見て、何をやっているんだろうこいつは。と思う。
 気が付けば床の上。二人とも両手をついて土下座一歩前の状態。何をやってるんだ。あたしも。
「・・・あのー?」
 どうされたんですか? と、あたしは覚えて間もない言葉で問いかけてみたた。ちょっと言葉を変えて、どうかされたんですか? とも言ってみる。しかし返事は無い。
「どうしたのよ!?」
 早々、回りくどさに我慢限界。体当たりをくらわして、あたしは叫んだ。
 その攻撃でやっと、リスが顔を上げてあたしを見る。
「シュ・・・シュリア・・・いたの?」
 まるで怯えているみたいなリスの表情。思わず「は?」と、柄悪く聞き返すが、その無礼なあたしにリスは最早構う素振りもない。
 いや、それどころじゃないらしい。
「シュリアに見付かった?」
 そう言って肩を竦め、リスはドアの方を見た。怯えた視線の先。ドアの向こうから音はしない。
「ううん。違った」
 ぶれた視界の中。
 つまり担ぎ上げられる直前。見えた横顔は、全然違うメイドのものだった。
 首を振ってそう言うと、リスは泣き崩れるかのように床に崩れて呟く。
「良かったー・・・」
「・・・???」
 何だこいつ。シュリアを知っているのか。と、判明。これは話が早い。と気付いて、そのリスの肩を揺すった。
「ね、ねねね、リス。シュリア知ってるの?」
「知ってるよ。知ってるに決まってんだろ」
 げっそりとした顔をやっと上げて胡座を掻き、リスは大きなため息を付いた。数分前には予想も出来なかったほど、随分お疲れの御様子。
「ホント!? じゃあ、じゃあさぁ。ね。あたし思うんだけど。シュリア連れていけばいいじゃん? あたしより、ずっと安心だよ? 間違いない」
 しかしそんな彼を見て、心配の「し」の字もないあたし。リスが疲れていようと何だろうと、お構いなしである。
 いや。むしろ望むところ。弱っていた方が有り難いなんて、一瞬でも思ったあたしは鬼畜である。ええ、ええ。
「・・・は?」
 対してその提案を聞き、リスは目を丸くした。そして、あたしの顔を覗き込んで言う。「何言ってんの? お前」と。
「ね? ね? そう思うでしょ? 思うでしょー?」
 しかしその言葉など無視して、あたしは駄々をこねる子供みたいにリスの服を掴んで言った。「ね? ね?」と、しつこく返事を急かす。うん、って言って。そうだな、って言ってー。ほらほらほら。と。
「ちょっと待て。だからどうして・・・」
 不思議そうな顔をしたままのリスは、そう言いかけてふと何かに気付いたようだ。さっきみたいに僅か顔を顰めて、今度は頭を抱えた。
「あー。何だ・・・」
 そして小さなため息混じりに、一言。お前、何も知らないのか。と、呟く。え? 知らない? 何を? と、駄々をこねるのを止めてリスを見上げたあたし。きょとん。
 そのあたしの頭をグリグリ撫でて、リスは力のない小さな声で言った。「あいつは駄目なの」と。
「へ? 何で?」
「・・・駄目なの。どうしても、駄目」
「・・・えー・・・?」
 どうして? なんでー? もう一度そう問いかけても、リスはそれ以上、何も教えてくれない。
 しかもあろう事か、素っ気ないほどに呆気なく、あたしから目を逸らしてしまった。それはちょっと前のあたしだったら、ムッとして殴っていたかもしれない程の対応。
 けれど今は、そう言われると理由を言われるよりもずっと「ああ、駄目なんだ」と納得してしまったあたし。だって、さっきと同じく、彼の言葉や行動が普段と違うことに意味を感じてしまったから。多分。そんな表現「狡い」・・・とも思うけど、それは同時にとても大きな主張。
 そして、無意識のうちに受け入れてしまうものでもあった。シュリアとリスはきっと、自分が思うよりもずっと、あたしの中に深く入り込んできている。
 さて。どうやら複雑な理由がありそうだ。シュリア、あんなに明るくて綺麗で上品なのに、あたしとは比べ物にならない人生を送ってきた模様。全然気付かなかったけど・・・そう思うと、シュン・・・。
「・・・あのな・・・」
 そして項垂れたあたしを見て、どう思ったか。
 リスは根負けしたかのようなため息を付いて、多分言うつもりは無かったであろう、こんな事を言った。
「・・・シュリアはさー・・・その・・・資格を失ったんだよ」
「・・・資格?」
「そ。・・・色々な・・・資格をね」
 例えばリスと出掛ける資格。を、失った。・・・そういうことなんだろう。きっと。
 でも失ったということは、元は持っていたということだ。その方程式は考えもしないうちに答が出てしまった、あまりに簡単な物。もしかしたら、どこかの・・・陥落した貴族の令嬢様とかなのかも知れない。
 そんな彼女が使用人になるなんて、並大抵の苦労じゃなかっただろうに。それなのに、いつもあんな笑顔で。辛そうな表情一つ見せないで、良く働いて・・・それなのに。
 それなのに、あたしは何を甘ったれたことを言ってるんだ! 簡単な事じゃないか。彼女に比べれば!
「リス。分かった! あたし頑張る!!」
 あたしはアッパー! の振りをして言った。自分で言うのも何だが、誰かの顎にヒットしたら気絶位簡単にさせられるだろうと思うほどに鋭い振りだった。 
「・・・は?」
 それを見て、一瞬青ざめたリスを見もしないであたしは叫ぶ。
「シュリアの為にも頑張るわ! 頑張って似非令嬢になってみせる!」
 ・・・似非じゃ駄目だろ。というリスの呟きは聞こえてきたが、そんなこたーどうでも良い! その場さえ凌げれば、後はあたしの知ったこっちゃないもーんだ。
 よし! 頑張るぞ!
 あたしはこの時初めて、かなりの前向きになった。




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