硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 心の痛みは、何よりも素直。そう。言葉よりも。行動よりも。・・・貴方よりも、きっと。
 それが、あたしの最後の悲鳴になるはずだった。
 そこまで、あたしは追いつめられていた。他の誰にでもない。自分に。自分の中にある、大きくあたしを蝕む何かに。
 現実的にあたしの体を蝕むと考えるならば、それはもう末期すら越えている。きっと。どうにもならないほどに、進行してしまっている。多分。
 そして、それを言えば全ては壊れ。あたしだけが残る。

 その筈だった。何も無い。あたしだけ。それはきっと、生存本能。起死回生の、全ての終焉。
 そうなるはずだった。それなのに。
 理不尽だ。そんな言葉も言わせて貰えなかった。
 今までになかったほど乱暴に腕を捕まれて、引き寄せられて。あたしは肩を強張らせ、目を閉じることが精一杯。
 痛い。もう、どこもかしこも。
 ・・・痛い・・・っ。



 何、するの?
 彼が触れた場所から、崩れていく音がする。
 止めて・・・。
 あたしを守る、力のない殻が消えていく。恐怖を覚えるほどに、あっさりと。
 さ・・・触らないで・・・!
 でも、その非難の言葉も、言えなかった。



 何も言わせて貰えない。だから、その気持ちは伝わらない。故に、彼は離れない。
 まるで今までの分を重ねて全てを押しつけるように、リスは決して離してはくれなかった。顎を上げられて拒むことも蹲ることも出来ず、無防備ともいえる自分に恐怖を覚えるけれど、守ることも、責めることも、最早何も出来はしない。
 や・・・や、だ・・・やだやだっ・・・苦しいっ。
 そう意思表示して抵抗しても、きつくあたしを抱きしめて、彼は乱暴なほど唇を強く重ね続ける。分かっているくせに。きっと分かっているくせに、何も分からない振りをして。それとも無ければ、全て受け止めて。
 悔しいけれど、どちらが正解なのか、あたしの体が勝手に理解している。そうでなきゃきっと、こんな風に触れたりしないって。抵抗するのを申し訳なく思うほど、優しく包んでくれたりしないって。こんなこと、する筈無いって。
 分かるからこそ、残酷な彼。強引なのに、乱暴なのに、痛むのはあたしの心だけなんて残酷。それが一番残酷だと、きっと彼は気付いていない。だからこそ彼は、どこまでも優しい。残酷な程に残酷。何よりも、残酷。あたしの心だけが、ただひたすら痛い。
 涙が零れるほど苦しくても。それに伴い意識が遠のいて、本能がどんなに抵抗しても嫌がっても。
 やがて体から力を抜くまでリスは許してはくれなかった。こんな時ばっかり、触れて。こんな時ばっかり、力強くて。こんな時ばかり、唇を重ねて。あたしを押さえつけた。
 泣きじゃくって息を切らせて、気を失いそうになっても彼は離してはくれなかった。
 これは、何のおまじない? そう問いかけたくなるほどに、離してくれなかった。まるで求めるように、あたしを抱く。それに伴い痛みだけが一層増して、増して、あたしは彼を求め掛ける。痛みを和らげるための、矛盾した欲求。
 それを理解したかのように、あたしの腕を、彼は自分の首に回す。苦しくてしがみついて、それでも時には抵抗するのも全て受け止めて、彼は最後にこう言った。


「これで分からないなら、お前は馬鹿だ」




戻る 目次 次へ 
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。