硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 18、やっぱり人間、中身だろ!

 本質は変わりませんよ。どんなに着飾っても。
「まあ、何とか形にはなりましたね」
「よく頑張りました」
「まだまだ心配なことは、たーっくさんありますけれども」
「それは、また帰ってきてからにしましょう」
「とにかく気を付けて」
「・・・は、はい」
 総勢五名の先生達。ずらりと一列に並んで、右端から順にそう言った。
 彼女達に向かい合う、あたし。その後ろには、そんなに飾って何の意味が? と思うくらい煌びやかな馬車の戸が開き、あたしを待っている。こんな物に乗る日が来るとは。人生何があるか分からないな。
「で・・・では行って参ります」
 最後に裾を僅かに上げ、頑張って優雅な会釈をすると、彼女達は満足げに頷いた。やれやれ。どうやら及第点は頂けたらしい。
 そして走りたいのを堪え、しずしずと馬車に向かうあたし。背を向けて安堵と「してやったり」な汚い笑顔をしていたのは内緒。
「お足元、お気をつけ下さい」
 騎手がそう言って、足下に台を置いてくれた。それもまた、踏むのが勿体ないくらい綺麗な足場でありまして。となれば、こう・・・庶民の血ってヤツが騒ぐわけでして。思わず。
 あ、全然大丈夫です。よいしょっ。
 とか言って乗り込みそうになった。
 ・・・が、生憎そうもいかないことに寸での所で気付く。危ねぇ!!! あたしは人知れず青ざめ小さく肩を竦め、そして「ありがとう」の言葉と共に必死に「ゆっくり」頷く。駄目駄目駄目。堪えろ自分。何でもかんでもやって貰い、何にも出来ない振りをするのだ! ゆっくり歩き、ホホホととか言いながら笑ってれば良いのだ! なんて、間違った「お嬢様像」を自分に言い聞かせてたりして。結局この程度しか意識の変化の無かった「ザ、庶民」万歳!!
 だがしかし。間違っていようと何だろうと、怒られまいと必死は必死だったあたし。だって本番よりもむしろ、今の方が全然気を使う必要有りなのである。この時さえ無事に越せれば、あたし的に仕事の九十九%は終わったと言っても過言ではないのだ。これさえ、終わればっ。と思っていたあたしの目に映る、馬車。シェルターに見えていたのは誰にも言えない真実。だって怖いんだもん。先生達ー。凄い怒るんだもんー。怒られるの、やだー。それに比べたら、何らかの粗相でもして赤の他人に呆れた顔されたり珍獣を見るような目で見られるくらい、屁でもないってなもんだ。けっ。・・・あらやだ。屁とか言っちゃって。おほほほ。なんて、まあ、言葉遣いが変わろうと優雅な会釈が出来るようになろうと、中身はこんなもんである。
 先生達の後ろからは、何だかんだ言いつつ、散々面倒を見てくれたメイドさん達が心底心配そうに見つめていた。彼女達は一番、あたしの本性を知っている。だからこそ、あんなに心配そうなのだ。気の毒になるくらい、心配そう。申し訳なくなるくらい、心配そうだった。もしかしたら彼女達が一番正常なのではと、この場ではしみじみ思ってしまう。
 そんなメイドさん達に対し、しかし爆弾そのものなあたしは気楽なものだった。あははは。大丈夫ですよ。ここさえ終われば。ここさえっ終わればっ。あと、ちょっとっ。もう少しーっ!! と、シェルター(馬車)に向かって勝利宣言。
 だって、そうですとも。ええ、そうですとも。後は誰にどんな目で見られようと、全然大丈夫ですから。いざとなったら逃げちゃうし。というか、行く途中にも逃げ出す気満々ですから。何かあったら、みんな倒して逃げますしーっ。
 と、おかしなやる気満々。先生さえ居なきゃ、こっちのもん的な気持ちの大きさがあったことは否めません。はい。気分は先生という名の檻から逃げ出す直前の肉食動物。
 しかしふと「諸事情」を思い出して、いやいや。と仕切り直した。駄目だ駄目だ。あたしの努力はどうなる。一億の返済に追われるのもまっぴらだ。どうなるか分からないけど、一応行くだけ行ってやれるだけやってこよう。と、気持ちも新たに頑張る気満々。うん。仕事だし。うん。仕事には責任を持たにゃいかん。よし。頑張ろう。
 しかしまぁ、結局は自分のことしか考えていない庶民、あたし。今からでも遅くないから、お城の方達(特に王子)には色々なことを思い直して頂きたいものである。
 さぁ。兎にも角にも、シェルター・・・じゃなかった、馬車が近付いてきましたよ。頑張る気があっても、早く先生達から逃げたい気持ちには変わりなし。あと三歩・・・二歩・・・。と、勝利へのカウント開始。もうすぐだっ。もうすぐーっ・・・。
 その最後の時に向かい、走り出したくなる自分の体を押さえるため、ギューッと体に力を入れた時。
 ・・・だった。
「レイラ様」
 あたしを引き止める、声。ん? と思って足を止めると、小さな陰が自分の隣に並ぶ。すすすす。という効果音に誰かを察す。爺さんだ。あの爺さんだっ。何だこの野郎。何の用だっ。いつもいつも良いところで邪魔しやがって!!!
 ・・・と、思わず顔にも言葉にも出かかるが、まずいまずい。と、それを押さえる。やってしまった後のことを考えるだけで・・・あ、寒気が。堪えろ、あたし! もうちょっとだ!! ここをグッと我慢してーっ!
「はい? 何で御座いましょう?」
 ニッコリと笑って優雅に振り返ったあたしを見て、言葉と作法の先生が頷いた。やれやれ、である。顔を隠し、あたしは思わずため息一つ。もぉぉーやっぱり逃げたいー・・・という気持ちが、その中には込められていたわけで。
 さて。爺さんは、そんな水面下(?)のやりとりを無視して、あたしの横にピッタリと寄り添い、小さな声でこう言った。
「あなた様の根性に期待しております」
「こん・・・は?」
 言葉を繰り返しかけて、あたしは素直に目を丸くした。何を言ってるんだ、お前。あたしはこれから即席優雅一筋で似非令嬢になるというのに。
 ・・・根性?
「クリスロット様は、令嬢様方に大変人気のあるお方ですから」
「は?」
 聞き返し、丸くした目を顰めて思う。だから、何を言ってやがるんだ、と。
 関係ないよ。そんなもん。行きたきゃどこにでも行け。と、思ったあたし。構わないよ全然。と。実際、引き留める権利もないし、さ。・・・なんて。
 あ、何だろう。何だか面白くないと思う自分が一番面白くない。ムカムカ。一人、何だか分からない思春期の憂鬱みたいにイライラ。
 しかし、そういう意味ではなかったらしい。一人悶々としていたあたしに、彼はいつも通りの口調でこんな事を言う。
「多分、陰険なイジメをお受けになると思われますが。そこはほら。レイラ様の根性でカバーということで」
「・・・あー、はいはいそうです・・・はぁー!?」
 イジメ? なんじゃそりゃー!
 予想外の言葉に、あたしの意識は「本能」へオン。
「仕方ありませんな」
「仕方なくないよ! あんた、どんな場所にあたしを送り込もうとしてるのよ! 何の恨みが有るんじゃぼけーーー!!!」
 ぇぇぇぇ・・・・・・。と、思いっ切り叫んで気付いた。物凄い殺気に。
「・・・あ」
 ・・・まずい。
「レレレ、レ」
「レイラ様!?」
 卒倒しそうな先生一同。しかし、そこはほれ。何と言っても、このあたしを淑女仕様にしようなどと努力する奇特で気丈なお方達ですから。
 ですから、そこには・・・「あんたを殺してあたしも死ぬ!」位の覚悟もあって。
「あわわわ」
 あたしは騎手とリスに手伝って貰って、まるで飛び乗るように馬車に乗り込む。さっきの台なんて、あっさり飛び越えた。
「ごめんなさーい!! いってきますーーー!!」
 そう言ったら、メイドさん達から歓声が上がった。何? これ何の壮行式だっけ? という盛り上がりようである。あはははは。・・・ありがと。みんな。ごめんね。先生。あばよ。爺さん!
「お前な。まったくもーっ」
 走り始めた馬車の中。隣でリスが頭を抱えて唸ってる。出る前から、この大騒ぎ。さすがに疲れを隠しきれない御様子。
「ごめんごめん。だってあの爺さんがーっ」
 あはははは。あたしは笑って誤魔化した。





【幕間】
「行ってしまわれましたね・・・」
「そうね。ちょっと心配ね・・・」
 レイラ、多分標的になってしまうから。シュリアはそう言って、小さなため息を付く。
 皆が引き上げ、そこにこっそりと出てきた彼女は、メイド服ではなくピンク色のドレスを身に纏っていた。そこにはやはり、パーフェクトフラワーの香り。憂いの表情とは反面、今日の彼女は輝くように一層美しい。
「本当は手を取って励まして上げたかったけど、あんなに人がいるところに出るわけにも行かないものね・・・」
 不便だわ。と呟いて、もう見えもしない二人の去った道を見る。そこにあるのは沈黙だけ。まるで二人の名残をそっと消すかのように、柔らかい風だけが残っている。
「仕方ありません。事情を知らぬ者もおりますから」
 その言葉に彼女は彼に視線を向け「・・・そうね」と、素直に頷いた。あのじゃじゃ馬とは、えらい違いだ。
「ちゃんと伝言は伝えてくれた?」
「はい。シュリア様の伝言だとは伝え切れませんでしたが」
「そう。ふふ。でも良いわ。どうせすぐ会えるから」
 そう言って、シュリアは身を翻す。その動作に淀みはなく、まるで計算し尽くされたかのようにドレスの裾が踊った。優雅という言葉は、彼女にこそ相応しい。
 それを見て爺さん「ふぉっふぉっふぉっ」と笑った。多分、「彼女」を思い出して。
「旦那様は、いつお着きに?」
「今日の夜って言ってたわ」
「国王様もお喜びになるでしょうな」
「そうね。さっき、クリスが最近、全然構ってくれないようなことを話していたわ。だからあたしが来たの、余程嬉しかったみたい。門の近くまで出てきていたもの」
「嫁に出した娘が帰ってくるのは、父親なら誰でも嬉しいものです」
「ふふっ。そうね」
 そうかも知れないわね。でも・・・。と、彼女は呟く。
「本当は大分前からいたのに、ね」
 そう言って、シュリアは悪戯っぽく笑った。





 すーかすーか。
 疲れたか緊張が抜けたのか、その頃二人は馬車の中で爆睡中。さっきの騒ぎなど、どこ吹く風の二人。
 ガラガラガラガラ馬車は走る。そんな二人を乗せて。二日間の他国旅行。この先どうなることですやら。




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