硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 19、似非は似非で、似非なりに。

 結局ね。似非は似非以上にはなれないんですよ。分かってますよ。
「ねぇ。レイラ・・・さん?」
「はい?」
 まるで確認するかのような口調で呼ばれ、あたしは振り返った。そして「げ」と思い、目を丸くする。
「御機嫌よう」
 そこにいたのは、キンキンだった。媚びるようにこっちを上目遣いで見て、目が合うとニッコリ・・・笑う。
「・・・ど・・・どうも・・・」
 あたしもその笑顔につられ、頑張って口角を持ち上げた。しかし引きつってしまって、どうにも上手く笑えない。演技を「させて貰う」相手として、彼女は不合格だったということらしい。
 だって「貴族令嬢」。そう当てはめるには、あたしの中で彼女は余りにも未熟だ。そして自分も、それ以上に未熟だった。そういうことなのだ。理由など考えるまでもない。本当の「微笑み」はこういうものじゃないことを知っているだけで、そう思う。邪気のない笑顔の価値は、結局そういうことなのだと、あたしの体が知っていた。基準がメイドでしかもシュリアというのは、我ながらおかしいとも思うがしょうがない。
 さて。リスは、まだ初老の男性と何かを話している。こっちに注意は向いていない。しょうがない。あたしはそれを何となく確認してから、再び彼女の方に体を向け、首を傾げて言った。
「・・・何か?」
「貴方に興味があるの。少しお話ししません?」
 そんなことを言う彼女は、しかしあたしの警戒を少しも解くことのない口調で言った。強引に解こうとすれば、余計に硬く結ばれてしまう糸のよう。
「え?」
「私達、お仲間は歓迎するつもりよ。ねぇ。みんな」
 そう言ってキンキンが振り返ると、後ろにいた三人が一斉に頷いた。一人は心細そうに。また、ある一人は意地悪そうに。そして残りの一人は、さして興味なさそうに。こちらも明らかに返事とは裏腹に、そうではないような態度。
 しかし、こっちはもっと非道い。あ、何? 貴方達、一緒に来ていたの? なんて、気付いてもいなかったりして。いやー。すまぬすまぬ。キンキンの目を節穴だとか言った癖にねぇ。と、完全に庶民へ逆戻り。俗に言う、化けの皮が外れた状態。所詮、似非は似非である。
 とはいえ、それを外に出すわけもなく。「ありがとうございます」と、小さな声で呟いた。そして初対面の挨拶を交わしながら「例え歓迎されていたとしても、二度と会うことはないだろう」と、心の中で別れの挨拶を呟いていたあたし。失礼極まりない庶民である。
 そんなあたしに、キンキンの先制攻撃。
「ところであなた、どちらのお家柄?」
「え?」
 お家柄・・・。何だろう。それ。分からん。と、あたしはいきなり窮地に立たされた。参ったぞ。これは・・・。と、遠い目をしてみるも、リスは話し中。どうにもこうにもなる気配なし。ということは、頼るところはあそこしかない。
 というわけで「先生、あたしどうしたら良いですか?」と、授業中はろくに謙虚な態度も見せなかった癖に、先生に頼ることにした。これは完全に記憶とか想像の産物であるのだが、幸いなことに(記憶、または思い出の中の)先生は助けてくれた。「分からないことを質問されて、クリスロット王子が助けてくれなさそうな時にはこう言いなさい」と。
「申し訳なく存じますが、それは私から答えることを王子から止められておりますので」
 散々噛んだ、このセリフ。つまり、それ程練習させられたセリフであるということである。こうなると、よんでいた先生の勝利。あんた凄いよ。先生ー。
「あら。随分ガードがお堅いのね」
 と、キンキンは鼻白んだ。それとも無ければ、クリスロット王子が居ないと何も出来ないって事なのかしら。とも、聞こえるように言う。そうね、この手の質問には何も出来ません。と、あっさり白旗なあたし。無理したってしょうがないでしょ。この似非令嬢。分からないものは振っても絞っても出てこないのである。
「それで・・・ん?」
 嫌だなぁ。まだ何か聞かれるのかなぁ。あれって何回まで使用可なのかしら。そう思っていたあたしの顔を覗き込み、キンキンは次の質問をしかけ、止まった。そして一瞬、驚いたように目を見開く。
 そして体を引いて、緊張したように少し肩を持ち上げながらさっきまでとは違う、押し殺したような声で言った。
「・・・ねぇ。貴方、何付けてらっしゃるの?」
「え?」
「香水の名前よ」
 そう言って、キンキンは明らかに不愉快そうに顔を顰める。
「・・・何って・・・」
 持っているものは一つだけ。今回のために色々用意してくれたらしいけど、あたしは全て断った。だって、これが一番心強いから。
 それがまさか、彼女の機嫌を損ねることになるとは、ええ、思ってませんでした。
「ルナ・・・ですけど」
 そう答えると、キンキンは更に顔を顰め、後ろの令嬢達は目を丸くした。「ルナですって」「あたし、初めて」「あたしもよ。どんな香りなのかしら」と言う小さな声が聞こえてくる。
 その声が気に入らなかったのか、睨むように一瞬後ろを振り向き、静かにしてから彼女は言った。
「素敵な物、お付けになっているのね」
「・・・はい?」
 何か、まずいことしましたか? の、表情にキンキンは「嫌だわ。謙遜なさって」と、鼻で笑う。
「それで? それは誰から頂いたのかしら。クリスロット王子? 色仕掛けでもしたの?」
「・・・???」
 何を怒ってるのか、何を言っているのか、さーっぱりわけが分かりません。色仕掛け? そんなものが通用する相手で、そんなものが使える人間だと思っているのだろうか。嫌味も方向を間違うと無力である。
「いえ、これは・・・友人から分けて貰って・・・」
 でも、シュリアなら出来るな。そう思いながら、あたしは言った。友人。あたしの気持ちは、その言葉の通りだ。彼女もそう思ってくれているなら、あたし達の間には友情が確かに存在する。そしてあたしは、そう信じてる。あたしは彼女が好きだ。一緒にいると安らぐ彼女が、大好き。
 一方キンキンはその返答に、アホみたいに目を丸くして言った。
「わ? わけ? か・・・買ったんじゃなくて? 頂いたの?」
「え? ・・・ええ。まぁ・・・」
 駄目でしたか? あたし、何かまずいことしましたか? と、胸に手を当てて考えてみる。・・・うん。分からない。
「・・・そう、なの。お金持ちの御友人をお持ちなのね」
 しかしキンキンのこの言葉で、あたしの気持ちは僅かに張った。お金持ち?
 ・・・それは・・・あの、どういう意味?
「何故、そんなことを仰るの?」
「あら。呆れた。あなた、もしかして何も知らずにそれを頂いたの?」
 この馬鹿。そんな感情を顕わにしてキンキンは言う。冗談じゃ済まされない。随分失礼な態度だ。
「物を知らないって、本当に愚かね。そんな人に付けられてルナも可哀想に」
 ねぇ。そう思わない? そう言って振り返ったキンキンを見て、引きつった顔をしてい三人が引きつったまま笑う。
「・・・その香水はね」
 あたしの方に顔を戻すと、彼女は怒ったように言った。
「世界で一番、高いと言われている香水よ。その香水欲しさに、何人もの貴族が位を捨てたって言われているわ。それでも手に入らないと言われている、それ程高価な香水なのよ」
「・・・は?」
 余りに意外な言葉に、あたしは彼女の失礼に対する怒りも忘れて固まった。はいー!? シュ、シュリア! あんた、なんてもんを保持してらっしゃるのー!?
 心の中で叫ぶだけ叫び、ビックリしてしまったあたしにまた腹を立てたのか、怒った顔のままのキンキンは言う。
「その高価さ故に、それを手に入れることの出来る女性は天使か悪魔だと言われているわ。そこまで愛される天使か、全てを奪ってしまう悪魔か」
 ああ、そうなんだ。確かにシュリアは天使みたいよ。ってことは。
「貴方、悪魔ね」
 ええ。それに反論は御座いません。シュリアを天使というのなら、あたしは鬼でも悪魔でもなりますとも。ええ。
 そんなことを考えながらポケーッとしていた、あたしがやっぱり気に入らなかったのだろう。キンキンはとうとう「表へ出ろ!!」と言った。
 ・・・間違えた。翻訳しすぎた。キンキンは、正確にはこう言ったのであります。
「・・・ちょっと外に移動しません?」




戻る 目次 次へ 
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。