硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 結局ね。似非は似非以上にはなれないんですよ。分かってますよ。それで結構。
 リスは何か話をしている。取り込んでそうだし、こっちに気付かない。
 それを確認してから、そんなことをする必要もないことに気付いた。まあー・・・いっか。何を言われても、殴られたり蹴られたりすることないだろう。なら良いや。いざとなったら、こっちから殴ってしまえ。・・・みたいな。
 そんな気持ちで大人しく付いてきたあたしの本性など、キンキンは気付いていないのだろう。でなきゃ二人で人気のない庭園になど、出てこようとするもんか。どうでも良いけど、広いなー。何だここ。運動場か? と思うほどの広大な庭園には、ぼんやりと光が散っている。綺麗。
 それをぼんやりと見ていたあたしに、キンキンは言った。 
「貴方ね。ちょっと図々しいんじゃない?」
「え?」
 何がですか? あんたの方が、よっぽど図々しいと思うよ。どうしてあんた、あたしに対してそんなに偉そうなの? てか、いきなり何なの?
 そう思いながらキンキンを見ると、彼女は目をつり上げて腕を組んだ・・・所謂「怒った態度」で、こんなことを言う。
「ひょっこりやってきて、クリスロット様の隣? ふざけないでよ」
「・・・はい?」
 何を言ってるんだ。こいつは。
 と思ったあたしの眉間に、僅かな皺が寄ったのをキンキンは多分知らないだろう。すぐに、ため息を付いて顔を逸らしたから。だって、もー。怒ったらいいのか、呆れたらいいのか。それすら迷うほどに、ずれている。多分、お互いが。大体、ねぇ。ふざけないでよ言われましても。
 ・・・あのねぇ。あたしに言わせると、あんたもリスも爺さんもふざけるなって話ですよ。誰が望んでこんな所に居ると思ってるんだ。それで、こんな事を言われてさぁ。たまったもんじゃない。それで結局あんた、何の話をしてるのさ。
 そう思い、しかし何も言わなかったあたしに彼女は言った。
「言いなさいよ」
「は? 何を? ・・・じゃなかった。何をですか」
 言い返す言葉はドスが利いて・・・しまった。いかんいかん。地が出てしまいそうになって、あたしは慌てて言い直す。でも、なぁー。あたし、中にいる時はそんなにボロ出なかったんだけどおかしいなぁ。相手のせいかなぁー。と、自分の未熟さは棚に上げてキンキンを見るあたし。
 キンキンはその相手として相応しく、令嬢としての教養も振る舞いも、何もかも持つのを忘れたらしい。可愛くない顔で、こう言った。
「どうやってクリスロット王子に取り入ったか、言いなさいよ」
「とり? ・・・はぁ?」
 何言ってんの? と言いそうになって、慌ててその言葉を飲み込んだ。言ってはいけない、と気付いたから。余計な言葉は、この場でプラスになることはない。足を引っ張るだけだ。あたしはそれを、極力避けなければいけない。
 逆に言えば、避けていればいい。自分の深くに関する質問を、避けてさえいればいい。そういう立場なのだ。それを思い出した。そして加え、言う価値もない。とも気付いたからである。だって。
 アホだー。こいつ、絶対アホだー。あたしは大きなため息を付いて顔を逸らした。ああ、来るんじゃなかったー、やっぱり。と、後悔。初対面のリスも非常識だと思ったけど、こいつも立派な非常識人だ。頭のネジが飛んでるよ。あー。どうしてあたし、こんな所に来ちゃったかなぁー。ホントに・・・。
 思わず、再び僅かなため息を付き、あたしは失望やストレスを空気に溶かす。そうしないと、体の中がおかしくなりそうだった。それほど、彼女の言葉は下らなくてつまらない。
 あのねぇ。あたし、リスとは何の関係もないから。あんたみたいな女が煩いから、盾として爺さんに送り込まれただけの庶民だから。つまりあんたのせいであり、あの爺さんのせい。だから、もうちょっと態度を改めなさいな。・・・って言っても通じねぇだろうなー。くそー。爺さんめ! もしかして陰険なイジメって、これのことか! 下らなすぎて腹立つわ!!
 と、一人。密かに別方向に苛立っていたら、自分の内なる心の声とは別の苛立った声が響いた。
「何様のつもりよ。あたしの方が、ずっとずっと前から知り合いだったのに」
 はぁ。そりゃ、そうでしょうねぇー。と、あたしは思う。だから何。
「それを横から奪っていくなんて・・・卑怯よ。卑怯者」
「・・・ひ? 卑怯者?」
 そう来るか。思いも寄らなかった言葉に、あたしはただただビックリです。
 あー。やっぱりだ。こいつ、どうも感性が合わん。と、この瞬間ハッキリ認定。だって、そういうの、早いとか遅いの問題じゃないだろって話ですよ。結婚してるならともかく。あんた、本当にどうかしてるんじゃないの? ってホント、今までの努力なんてどうでもいいやー。みたいな感じで言いたいけど。
 ・・・我慢我慢。先生に言われたでしょ。何を言われても事なかれ主義を通しなさいって。つまり無視すれば良いって事だ。取り合わなければ良い。まじめに聞く必要はない。気もない。ただ、一億が。何よりも一億が。そう、一億の為に。耐えろ、あたし。しょうがないんだから。諦めろ。今後の人生のために。辛いこともある。山も谷もあるさ。人生だもの。自分のためだもの。分かってる。でも考えてみると、もう十分耐えたんじゃない? よし。もう戻ろう。こいつと話していると頭がおかしくなる。今後の人生も大事だけど、今を生きなきゃね。
 途中から思考は一転。耐えることを決めた直後に耐えることを放棄して、あたしは早々逃げることにした。頭の中の辞書を開き、最後の捨て台詞・・・じゃなくて挨拶を検索する。「申し訳有りませんが先に戻らせて頂きます」これで良いんだな。よし。
 と、指さし確認してからキンキンに向き直った時だった。彼女は、あたしを指さしてこう言ったのだ。
「傷物のくせに」と。




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