硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 結局ね。似非は似非以上にはなれないんですよ。分かってますよ。それで結構。だって、本物が全て素晴らしいなんて誰が決めた!?
「・・・傷物?」
 その意味を聞き返すと、彼女は細い指で喉を指さす。どうやら騒動の時、傷付けられた物のことを言っているらしい。何だ。あれのことか。傷物だなんて、随分大層な言い方するから分からなかった。しかし何でお前、そんなことを知ってるんだ。
「あら、驚いたの? そうよね。貴方がクリスロット様に大事にされている理由だものね。知られたら困るわよね」
 ・・・何を言っているのか分からない。そう思い顔を顰めたら、彼女は見下すような視線で言う。
「聞いたわよ。要人を守って怪我をしたらしいわね。こっちの上流階級の中では貴方、ちょっとした英雄よ」
「英雄?」
 なんじゃそれ。殆ど・・・。
 と、言いかけて余りのことに言葉を失ってしまったあたし。・・・だって。
 殆ど所じゃない。全部間違っている。むしろ嘘。どうひねくれて伝われば、そんな英雄伝になるんだ。情報って怖いなぁー。残念だけど、そんなに大層な理由ではない。犯人は要人を狙っていたわけでもないし、あたしは守ったわけでもない。ほらね。全部ちゃうやん。あー。怖い怖い。
 同時に彼女がイライラしている理由を垣間見た気がして、呆れるしかないあたし。だってそんなこと、どうでも良いじゃん?
「別に・・・もう殆ど跡も目立たないし」
 でも、それを言うと話が拗れそうだったので黙っておくことにした。うおー。窮屈だな。似非とはいえ、お嬢様って。
「だったら責任をとって貰おうなんて、浅はかな考えはお止しなさいよ」
「・・・責任?」
 何を言ってるんだ、こいつは。さっきから本当にもう・・・カチン。余り訳の分からない、しかし何故か腹が立つことを言うと殴るぞこら。何たってあたしは似非だからな。似非なんだからな! と、似非な事に自信満々のあたし。やっぱり似非以上にはなれないことが、ここにきて判明。
「そうよ。そうでなかったら、クリスロット王子が・・・」
 そのあたしを見て、彼女はフンと笑う。
「あんたみたいな女に靡くはずが無いじゃない。・・・あら。間違えたわ」
 続けて、ほほほ。という、わざとらしい笑い声が流れた。
「別に靡いていたわけじゃないわよね。可哀想な王子。優しくて責任感が有るばっかりに、こんな女に利用されて」
 ひたすら不快な声が、あたしを撫でる。
 イライラする。目の前にいるだけで。くそ。イライライラ。何なの? その人の神経を逆撫でする態度は。
 久しく感じていなかったこの負の感情は、思っていたより、とても嫌なものだった。気分が悪い。きっとあたしにとっては、体調不良よりも体に悪いものだろうと思うほど、悪い。
 だから、だろう。責任。あー。そうなんだ。それか。そうなのか。なんて、こんな事を考えてしまったのは。
 でも、しょうがない。だって、しょうがないじゃない。あたしがここにいる理由が分からないんだもん。どうして帰してくれないのか、分からないんだもん。流されて振り回されて、言い訳をしながらここにいる自分を幸せだと思っていることは認める。でも、納得はしていない。理解した上で、ここにいる自分を認めたことなど一度もない。
 けれど、そういう理由が有れば納得がいく。むしろ、それしか考えられない。考えられなくなってしまった。今の、あたしには。心に余裕がないと、視界も狭まる。例えそれが分かっていても、納得してしまう理由だから仕方ないとも思う。だから、それを信じる。不可抗力。
 そして最後は、あたしを振り回したあいつに責任転換をした。リス、馬鹿なヤツ。責任なんて、そんなものに囚われているなら馬鹿だ。って。
 大馬鹿だ。殴ってやりたいほど、愚かだ。硝子の靴で嫁捜しするよりも馬鹿だ。やっぱりあいつは馬鹿なのか。いや、知ってたけどさ。
「大体ねぇ。無傷な体の意味も知らないなんて。貴方はここにいるべき人間じゃないわ」
 無傷じゃなくたって、いるべき人間じゃないこたー分かってるっつーの。そう分かっていても、それはそれで癪だから言えない。
 そして黙ってしまったあたしに、彼女は言った。
「目障りだわ」
 その目は、もう笑っていない。その声は、もう負の感情しか帯びていない。
 それを聞いて、実感した。ああ、そうか。この人は包丁で指を切ったり、躓いて膝をすりむいたり、悴む指やあかぎれの痛さを知らないのだ。と。誰かがそうなるのが当然で、それを認めることすら出来ない。自分がそうなるなんて、考えたこともないのだろう。こちとら、そんな傷は山ほどある。火傷の跡も、傷跡も、指や腕にうっすらと残っている物もある。ここに来る前からずっと。
「ここ」に元々来るはずのない人間だと言われれば、生まれた時からそういうことなのだ。だから分からない。言えば何でも出てきて、飾り物のように磨かれて、それが当然だと思っている彼女達には。きっと人の痛みなど。
 でなきゃ、こんなこというもんか。
「いなくなれ。お前なんか」




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