硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 4。

 結局ね。似非は似非以上にはなれないんですよ。分かってますよ。それで結構。だって、本物が全て素晴らしいなんて誰が決めた!? 似非だからこその起死回生。そんな特権も似非でこそ!
 はぁ。言われなくても、そのつもり。彼女に従う形なのは癪だが、これ以上話をしている気にもならない。あたしは胸くそ悪く・・・じゃなかった。いかんいかん。取り敢えず、まだ令嬢(似非)だった。ええ・・・基。
 気分が悪くなったので部屋に帰ることにした。そしてその旨をリスに伝える。腹を立てていても、それくらいの理性はある。
「え? 酔った? 大丈夫?」
 僅かに心配そうな色を浮かべたリスに、雑な口調で「飲んでない」と返事をして、あたしは素早く視線を走らせた。注目している。令嬢達が、あたし達に。正確に言えば、リスに。彼が、一人になることに。周辺の視線はあたしの近くに集中し、しかしそこには長く止まらない。隣のリスに注がれる方が圧倒的だ。それ程までにリスは・・・そう。爺さんの言った通り、人気のある男なんだろう。愚か者だけど。馬鹿だけど。どうでも良いけど!
「疲れた?」
 その彼は、何も知らない顔して。
 尚、心配そうにリスは言う。その表情に目を向けると、怒りや軽蔑や、多分認めていない傷の痛みは、僅かにその勢いを失った。ああ、そうか。しょうがないや。何も知らないんだよ。こいつ。だからキンキンに対する怒りで、こいつの当たるのはお門違いである。馬鹿だし。と、自分を制する意識の出現が何よりの証拠。そして残ったのは確実な疲れだけ。眉も肩も下げて、あたしはため息混じりに頷いた。
「そんなとこ。もう挨拶も済んだし、良いでしょ?」
「良いけど・・・」
 そう言って何かを考えるかのように、僅かに顔を逸らしたリス。まとわりついていた女達は、その言葉にニヤニヤと含み笑いを零している。あたしに見えるように。でも、リスには絶対見えないように。
 それは遠慮なく向けられる視線と共に、否応なくあたしの視界に入ってきた。それでも隣の彼は、やっぱり全く気付かない。
 リスが鈍いんじゃない。気付かれないように、そういうことをする彼女達の方が一枚上手なのだ。そこまで人形じゃないということ。逆に言えば、そういうことだけは町娘よりも長けているということだ。それが、ここで必要なスキルだから。
 こういう状況に慣れてもいるのだろう。あたしにしてみれば、何て素直な喜びよう。ただ単にリスが野放しになるのが嬉しいのかも知れないけれど。
 そんなこと、どうでも良いわ。彼は彼で責任を負うでしょうから。・・・それよりも、あたしが言うのも何だけど下品。下品よ。貴方達のその顔。けっ。
 さすがに我慢限界。あたしは、とうとう顔を顰めてしまった。しかし、やっぱり彼は気付かない。
 正確に言えば、「気付けない」。・・・それなのに。
「分かった」
 気付かないのに。
「じゃ、後で」
「・・・え?」
 後で? 後でって何さ。そう思ったあたしに、リスは言う。「後で、お前の部屋に行くから」と。
 何も知らないくせに。
「・・・はい?」
 何で、そんなこと?
 その言葉に目を丸くした、あたしの視界。あたしよりもずっと呆気にとられている、令嬢達の隠しきれない間抜けな表情があった。キンキンに至っては、多分中身が空っぽになっていたと思われる。ふふふん、みたいな顔が一瞬で廃人と化した。
 ・・・のが見えた。顔色を失い、目は空洞。ふらりと後ろに倒れかけた体を、取り巻き達が数人掛かりで支える。そして声を掛けたり肩を叩いたり、お上品な仕草で何やら繰り返していたが、キンキンは一向に目を覚ます気配がない。
 間違いない。ありゃ魂抜けた。絶対、悪魔か死神に魂持っていかれた。
 ・・・怖かった。




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