硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 20、建前の向こうの本音。

 強い気持ちは、全てを越える。例えば、驚き。
 部屋に戻り、寝る準備をして一人。窓の外には明かりが残り、僅かに人の気配を感じる。聞いていた終宴時間は過ぎているので、余韻を楽しむ人達や必要のある人達が残り、会話でも楽しんでいるのだろう。さわさわ。さわさわ。それは決して不快なものではなく、むしろ眠りを誘う程に心地良い。
 ・・・とか思って、雰囲気に酔っている場合ではない。
「・・・」 
 むむぅ。今更、緊張・・・というより、動揺してきた。ベッドに横になって、触り心地の良いシーツに猫みたいにスリスリ頬擦りをしていた、あたし。ぴたりと止まって、いきなり我に返る。
 その脳裏に自動的に再生されたは、ついさっきの出来事。やめてぇー。と思っても止まらない、あの後の出来事。
 あの後。リスは誰にも何も言わせず、お偉い(と思われる)人の方に歩いていってしまった。何も出来ず、それを見送る令嬢の群とあたし。その時の固定されたカメラのような視線は、今でもリスがこっちを無視するように背を向けていたのだけ脳裏に映し出す。
 周りにいた無関係な人達は、そんな固まりを怪訝な表情をしてみていた。何があったかなんて、きっと想像も出来ないに違いない。異常なほどシンと静まり返った、それは煌びやかな喧噪の片隅。
 あたしはやがて、その「外」からの視線に気が付いて。
「・・・れ?」
 あれ? あれれれ? と、目をパチパチ。そしてキョロキョロと辺りを見回した。まだまだ停止中の周辺。その外の視線と何度か目が合い、そして顔を逸らされたあたしは、どうやらそこら辺のお嬢さん達よりも少しだけ早く意識を取り戻したようだ、と理解する。とはいっても何が何だか、いまいち状況の把握は出来ないけれど。
 ・・・出来ないけど・・・。
「・・・えっとー」
 こりゃ逃げるに限る。何が何だか分からないけど、逃げるべきだ。逃げよう。そそくさ。
 と、あたしはその止まっている令嬢達を掻き分け(そそくさ?)そこから脱出した。
 そして、さっさと部屋に戻ってきた。ドアを閉めて一人になった時は、訳の分からない緊張と息切れで思わずズルズルと座り込みそうになったが、理由も分からずへたり込むのは嫌だったので持ち前の筋肉と根性で堪えた。よって、もしも隠しカメラがあってもあたしの足がガックガクだったことは、絶対誰にもばれないだろう。
 さて。そんな有りもしない隠しカメラに向かって意地を張ったあたしは、無意識とも言える真っ白な思考のまま、ジタバタと暴れるように就寝に向けて準備を進めた。服を変え、体を清め、まるでまとわりついている何かを落とすように突っ走る。無心で夢中に、そして必死に顔を洗ったりした。これが現実逃避でなくて何なのか。そんなことを考える自分を振り払うように、ペチペチと頬を叩く。「こうすると肌の張りが良くなりますよ」っていう、メイドさんの言葉だけを思い出しながら。張り、良くなれ! 良くなれ! って念じながら。それ以外のことなんか、考えたくなくて。
 そんなことを繰り返していたら、やがて意識だけは見事にポンと飛んだらしく、落ち着きを取り戻し・・・・というか、半分忘れた状態で「いやー。やっと落ち着いた」と呟き、ベッドに飛び乗って、フワフワの枕をぎゅーって抱きしめて、うふふふ、気持ち良いーっ。さぁー寝るぞって、シーツに頬擦りしながら気合い入れて・・・はた。
 ・・・と、急に現実に引き戻された。というわけだ。そういえばあいつ、おかしな事を口走っていたな。と。・・・いや、おか、しなこと、って、言うか・・・。
 おかしい? ぶんぶんぶん。と、あたしは慌てて自分に対し、首を振る。そんな言葉で片付くかよっ。という非難を込めて。だって。
 そうだ。とんでも無いこと言ってた。あの王子。「後で、お前の部屋行くから」・・・って・・・言ってた・・・よな。それって、どういう・・・。
「・・・こ、こと? だ?」
 気が付いたら疑問が口から出ていたが、そんなことに構っている余裕はこれっぽっちもない。
 それどころじゃない。思い出せば思い出すほど、これが反動という物なのか、異常に焦ってきた。頭から血の気が引いていくのを感じる反面、頬で血流は塞き止められてしまったのかと思うほどに下半分だけ熱くなってくる。勿論枕とシーツの感触も、外の明かりも人の気配も、見事に吹っ飛んだのは言うまでもない。だって、リスの投げた爆弾発言の前には、全てが塵と同じ。今更、改めてビックリするほど。顔色が半々になるほど。信じられないくらい、動揺するほど。
 ちょ、ちょっと待て。っていうか、本当にそう言ってた?
 寝っ転がったまま、あたしは頭を抱えて必死に考えた。誰かに確認を取れれば考えようもあっただろうが、生憎今はポツンと独りぼっち。そんなことは当然出来ず。となれば人間、逃げたい方や信じやすい方にグラッと傾くのも当然で。自分で逃げ道を作り出すくらいに強引な、あたしでありますから。
 いや。・・・言ってなかったかも。聞き間違いかも。うん、聞き間違いだ。さもなくばあの場を驚かせたり止まらせたりするための冗談だ。ジョークだ。イッツショータイムだ。
 と、最終的にそういう結論と相成りまして。強引でも何でも自分の好きな方向に突っ走るのが、あたしという人間でありまして。大体、そう考える方が正常ってものだってもんでして。
 しかしそれは五秒後に木っ端微塵となる・・・なった、わけでして。
 トン、トン・・・。
 不意に、ノックの音が聞こえてきた。




戻る 目次 次へ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。