硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 4。

 強い気持ちは、全てを越える。例えば、驚き。例えば、事実。例えば、誤解。例えば、感情。
「そんなに寒くないし、毛布一枚貸して貰えれば良いや」
 と言うから、言う通り毛布一枚だけを貸してやった。思ったよりも丈夫らしい。いつも、こんな風なベッドで寝てるだろうに・・・意外だ。
 そう思い、あたしは自分が横になっているベッドの感触を確かめる。良い寝心地。リスの所のベッドもそうだけど、こんなに寝心地の良いベッドがあること、きっと体感しなければ分からない。
 その有り難みを、あたしはまだ当然だとは受け止められない。つまり、芯からの庶民である。そんな庶民がベッドに横たわり、王子ソファ。面白くも滑稽な光景。
 ちょっとだけ体を起こし、見た向こう側のソファには、肘掛けから覗くリスの足。その足は、動かない。もう寝ているんだろうか?
 あたしは再び蹲り、思う。うーむ。何をこんなにハラハラしているんだ。あたし。一緒の部屋にいるから? と、それっぽい理由を一応考えてはみてみますけれど。
 ・・・違う。考えるまでもなく、それは間違っていること、知っているわけでして。
「・・・」
 あたしは、今度は完全に上半身を起こす。さっきと変化のないリスの足。それを見ていて、自分の気持ちを再確認。それはハッキリとして大きくて、無視出来ないほどあたしの頭を支配する。眠れないほど。
 ・・・心配だからじゃないか。あんな所で寝て、疲れを残したり体調崩したりしないかなって。
 そんなことを抱えつつ、あたしは一人、ここで寝ていられるほど人でなしでも図太い神経の持ち主でもない。ベッドが、あたしサイズなら五人くらい横になれるだろうなと思うくらいに広いから尚更だ。
 あたしは立ち上がる。そしてリスの横に行った。足音を立てずに、そっと。


 目を閉じているリスの顔を覗き込んで、寝てるのかなぁ? と思う。それならそれで、起こすのも申し訳ないけど。
 そう思いながら、いつかリスがしてくれたように彼の横に跪く。彼は目を開かない。呼吸も聞こえない。静かすぎて不安になるほど、彼は全くの無防備だった。
 左の手が胸に乗せられていて、そこは僅かに上下している。どうしてだろう。それを確認すると、とても安心した。見ていたいとも思ったけど、それだけに留まれなかったあたしは。
 それに、そっと触れた。
「・・・ん?」
 リスが、気付いて目を開ける。起きていたのか寝ていたのか、分からない。ただ、不思議そうにあたしを見たリス。「外」である筈のこの部屋で、そんな表情を見せられて。
 ・・・疲れてるのかなぁ? そんなことを思って、やっぱりここに来て良かったと思う。
「・・・あの、さぁー」
 改めて言うのも、おかしいなぁ。そう思いながら、あたしは言った。
「・・・端と端だったら、一緒にベッドで寝ても良いよ」
 そう言ったあたしの手は、無意識のうちにリスの手を握りしめている。
 いや、違った。緊張で冷たくなったあたしの手を握りしめてくれているのは、リスの暖かい手で。
 ・・・と、彼の手の力が強くなって気付いた。その手を見ていたあたしに、リスは言う。呆れたような顔で。
「そんなこと約束出来るくらいなら、ソファで寝るなんて言わないけど」と。
「だ、だったらソファで寝なさいよ」
 それでも良いよ。と言えるほど、あたしは大人ではない。そして立ち上がろうとしたあたしの手を、まだ握ってリスは笑った。
「だって俺、寝相悪いよ?」
「・・・」
 そういう意味か。と、動揺してしまった自分を恥じた。いや別に、何の想像していたわけでは・・・。いやいやいや。
 そう誰にともなく言い訳しながら、頬が熱くなった。それを俯いて隠しながら、あたしは呟く。
「寝るまで端なら良いよ」と。




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