硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 21、許されるんです。何もかも!!

 思う気持ちがある。だから、時に嘘は許される。
 一転。二人の間に、生まれた沈黙。二人を包む、静かな一瞬。ただ耳の中に残った、自分の最後の言葉。・・・嘘。耳の奥に木霊するたび、まるで胸を押されているかのように息苦しくなる。重たい、沈黙。
 彼に触れている時に、こんなに不安な沈黙なんて。
 多分一度も、無かった。
「・・・傷物」
 やがてリスは、囁くように呟いた。
 その言葉にあたしは強張り、捕まれた手からそれは伝わっただろう。きっと。遠い遠い場所で聞こえた気がする、リスのかすかな笑い声が確かなら。
 それは、あたしにとって少し優しくて。
 胸の重みは増し、そして軽くなる。軽くなり、重くなる。今はまだ、不安定な重み。彼の言葉が、この全てを左右する。
 その決定打は、これだった。
「って言われて、傷付いてるの? もしかして」
 リスは腕の中にいるあたしに「落とす」ように、優しく呟いた。どうして今この瞬間に、そんな声で撫でてくれるのと問いかけたくなるほど、どこまでも優しく。熱があるとすれば、きっと心地よい温度を帯びて。
 ただし、その言葉と声はあまりにもギャップがありすぎて。
 一瞬意味不明。ギュッと強く目を閉じて、その言葉を受け止めたあたしは。
「・・・・・・・・・は?」
 やがて理解するや否や「ぽかん」と、口も目も開けてリスを見上げた。重み? そんなものあったっけか? てな具合に、跡形もなく吹っ飛んだのは言うまでもない。
 その顔を見て、リスは笑った。そこには余裕があって。全て知ってる余裕があって。な、なんてこった。ああ、あんた、あの話聞いてたの?
 その言葉が、前歯直前まで出かかった。しかし出てきたのは「げ」という一言だけ。
 そんなあたしの顔を挑発するように間近で覗き込み、可笑しそうにリスは言う。
「『あたしは、この場に相応しくない。その理由が責任なんて重すぎ・・・』なんて? いや、まさかな?」
「・・・う・・・」
 からかうようなリスの声。恥ずかしかった。
 いや、それだけのせいじゃない。だって言われてみたら、こんなに情けない理由もなかったのだ。気付いてみれば、あたしは一人、踊っていただけ。自分の尻尾を獲物と間違えて追う獣みたいな、滑稽な行動をしていただけ。今思えば、そういうこと。だって、そういうこと。顔から火が出そう。
 挙げ句、こんなリスに気を使ったり、あたしがどうにかしなければならないことがあると思っていたことさえ馬鹿馬鹿しく思えた。彼は、自分の意志であたしをここに連れてきたのだ。そう、彼が望んだから、あたしはここにいるのだ。そのあたしが気を使う必要なんてどこにもないと分かっていたじゃないか。どんな問題が起こっても知らないとすら思っていたじゃないか。大体、これは仕事で。あたしはお手伝いをしているのであって。責任を、なんて思う方が図々しい。むしろ感謝されても良いくらいだ! くらいなのだ! ・・・ま、その。一億の事は、この際放っておいて・・・。
 ああ。取り敢えず、冷静になれば冷静になるほど情けないやら恥ずかしいやら。そう思うあたしは、素直に真っ赤な顔をしていただろう。
 だからだろう。リスは笑って、こう言った。
「んなこと気にする女じゃないよなぁ? 傷跡だって残ってないのに、な?」
 そう言って、リスはあたしの首筋を優しくなぞる。傷の、有った場所。今は、何も無い。
 けれどその感触に体を震わせたあたしに再び笑い声を零してから、リスはそこに軽いキスを落とした。それはあたしに熱を与え、痺れを伝え、緊張と安堵を運ぶ。
 初めてキスをされた場所。そして今は、その意味がないのにキスを受ける場所。
 誤解を招くほどに、キスされた場所。戸惑いながらも拒めなかった・・・キス? 
 ・・・誤解?
「どうなの?」
 からかうような口調で、しかしリスは許さない。あたしが答えるまで、許さない。
 キスを受けて痺れた体は、リスのなすがまま。
「・・・どうなの?」
 その体を、リスは抱きしめた。ぎゅぅ・・・と優しく、強く。何度もそうしてくれたことは、体が覚えていた。それが答ということも。
 ・・・泣きそうになる。
「硝子の靴よりも、愚かだろ」
 お前の考えていること。リスはそう呟く。あたしの耳元で。
 あ。それ、あたし同じ事考えていたよ。・・・考えていたのに・・・。
 くそ。気付かなかった。あたしの方が、そんな言葉に囚われていたなんて。
 ・・・なんてこったい。




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