硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 思う気持ちがある。だから、時に嘘は許される。触れ合うことも、許される。
「・・・だろ?」
 笑って、そう言ってリスは、あたしを試すように再び顔を近付けた。そうね。そんなこと、分かっているわ。
 ・・・分かっていたわ。分かってはいたの。ホントは、ずっと。だから拒んでいた。そして今度は、拒まない。
 触れる彼の髪に従うように、あたしは目を細める。もう、拒めない。これで全てが終わってしまうとしても、あたしにはもう、何も出来ない。一人で生きていく強さよりも、とうとう大切なものを見付けてしまった。気付いていたくせに見ないようにしていたものを突きつけられて、もう言い訳も出来ない。
 分かっていた。今、もう一度触れてしまえば、もし許してしまえば、きっと二度と逃げ出せないって。一人では、立っていられなくなるって。つまりこれが、あたしの最後の砦。最後の選択。自分に言い聞かせていた小さな戒めを、もう二度と口に出すことはないだろう。
 崩れていく支え。消えてしまう、生きていく術。無くなっていく、一人でいられる強さ。欲してしまう自分を咎める術が無くなって、得られるかどうかも分からない物をきっと追い求めてしまうようになるだろう。つまりそれは、これからの人生が暗闇の中に沈むということ。少し怖い。不安にもなる。光を失ってしまう瞬間。先が見えない場所へ堕ちていく時。
 生まれてから死ぬまでに、続いている道から逸れていく。当たり前じゃない人生になる、その瞬間。
 怖くてしょうがないのに、あたしは。全て分かっているのに。それなのに。
 ・・・理解して。それでも抗えなくて、あたしは。もう、多分、我慢が出来なくて。それ程、求めていて。あたしは。リスの腕の中で。
 ・・・目を閉じる。許した。今全て、手放したのだ。心まで。全て。
 いや、受け渡したと言っても良い。自分の中にあった僅かな戸惑いや意地、意識や規制を、彼に全て。いつか逃げる為の、力を全て。
 そんな、さして役にも立っていなかったとはいえ唯一の支えを失った不安定なあたしを、彼は抱きしめる。まるで支えてくれるように、しっかりと。どうしてだろう。不安定な筈のあたしは、かつて無いほど安定している。
 それにしてもリスは、どうしてこんなに自信満々なのか。それ以外に拒まれるとは・・・思って・・・なかったのかなぁ・・・。
 今度は大人しく彼を受け止めながら、あたしは思う。彼に触れ、体が震えるこの感触は、いつまで経っても最初のまま。それは治まることなく慣れることもなく、むしろ大きさを増してあたしを包む。許せば許すほど、求めてしまえば心が震えてしまうから。
 そのあたしを見て、リスは小さく笑う。あたしが余裕を失うほどに、彼は優しくなる。唇も、手も。これ以上ないというくらい、全て。
 ・・・分かるか。あたしがキスをする時、どんなに痺れているか。リスはきっと、知ってる。最初から、ずっと。




「なぁ・・・」
 どうしてだろう。あたしが変わった? それとも、リス?
 甘い甘い声に、溶けそうになる。優しくて熱い、キスにも。こんなの初めて。
 このまま、溶けてしまいたい。彼の腕の中で。
「レイラ。俺に、頂戴?」
 ・・・何を?
 言いかけた言葉は、出てこなかった。



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