硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 3。

 思う気持ちがある。だから、時に嘘は許される。触れ合うことも、許される。場合によっては粗相も・・・許される?

 翌日の、夕方。「何故に二日も有るんですか?」と、リスに聞いたら「一日だけだと、都合によって来れない人もいるからね」と、回答を頂きました。その「都合」とやらをフルに活動させて、もう帰ろうよー。と言っても、聞く耳有りませんでした。
 という訳で、しょうがねぇ。行くか。と、重い腰を上げたあたし。どこに行く気なのか、ひたすら不釣り合いなあたし。

 その会場に向かう途中。あまりにも高価なものだと知って、付けることを躊躇ったルナを見ていた。あたしはこれを付けて、ここにいても良いものか。不釣り合いなあたしだからこそ、考えた。あたしだけが、不釣り合い。だからずっと、考えていた。
 けれど気付く。そして理解した。シュリアが、これをくれた意味。
 あたし、良く覚えてる。ルナだけで良いと言った時。その理由を、パーフェクトフラワーはシュリアが纏っているのが一番素敵だからと言った時。彼女は驚いたように暫くあたしの顔を見てから、微笑んだ。そして言ったよね。「ルナは貴方に、相応しいわ」と。
 お世辞だと思っていたその言葉の意味は今、少しだけ分かった気がする。たった一つを選んだあたしを、そしてシュリアだけに付けていて欲しいと願った意味を、貴方は知って認めてくれた。そしてそれと同じ気持ちを、きっとあたしにくれたんだ。
 それはあたしにとって、何よりも大きな意味を持つ。彼女はきっと、この場にいるあたしに付けて欲しいと思ってくれるだろう。だからこそ、これをくれたのだろう。
 この場にいること自体、不釣り合いなあたし。ルナだって、きっとそう。だからこそ、この場でルナと共にいたい。シュリアと。彼女の気持ちと共に。
 気付いて受け止めれば、ルナをもっと愛せる。あたしは心を決め、リスに先にホールに行ってくれと頼んだ。すぐに行くから。と。
 ルナを纏って。




 そんな、二日目。のこと。気を取り直し、ルナと共に、さぁ出発。と、あたしは歩き出した。ホールまでは単純な道程。庭園を過ぎれば、すぐだ。昨日、光が散っていた場所。今日も暗くなりかけた空に光が優しい。
「ちょっと待ちなさいよ」
 そう思い、見上げていたら進行方向から声が掛かった。光と香りに酔っていたあたしは気付かず、目の前でやっと立ち止まり、彼女達を見る。
 そして、引いた。ホールの手前、ずらりと並んでいる令嬢達。・・・あら? 何、あれ。何ですか? これから何が始まるんですか?
「・・・ごき、げん・・・よう」
 右から左までキチンと見回して見るも、残念無念理解不能。混乱のため、あたしの挨拶は乱れた。
 その挨拶を無視して、中央に仁王立ちした彼女は言う。
「あなた、いい加減にしてよ」
「・・・は?」
 そう言うキンキンの目の下には立派すぎるクマが。・・・それ、メイクじゃないですよね? そう問いかけたくなるほどに、見事なクマが。
 目は充血しているし、衣装が衣装ならどっかの妖怪のように見えただろう。つまり、今はドレスを着た妖怪みたいに見えているわけで。・・・あれ? どっちにしても妖怪でした。失敬失敬。どちらにしても、こりゃ失敬。心の中でぺぺんと頭を叩いたあたしに、キンキンは言った。
「あんた何なの?」
「・・・え?」
 それは、こっちの台詞でありますが? 貴方達、何なの? どうしたの? 怖すぎますよ。そのクマ。
 ・・・などという言葉が通じる様子もなく。肩を竦めて、あたしは言った。
「あの、仰っている意味が良く・・・」
 しかし、最後までは言わせて貰えなかった。あたしが言い終わらないうちに「ふざけないでよ!!!」と、キンキンは叫ぶ。
 ビックリして、ひぃっ。と肩を竦めたあたし。しかし妖怪・・・じゃなかった。キンキンは容赦ない。収まりつかない様子で更に叫んだ。
「昨日言ったでしょ!? いなくなれって! それが・・・それが・・・っ」
 彼女の表情はどんどん険しくなり、顔や目は赤みを増してきた。これがワザと出来るなら、彼女は大した女優になるだろう。SFとかがお勧め。特殊メイク、CGいらず。
「あたし達、みんなで楽しみにしていたのよ。クリスロット様に会えるからって。それなのに、何よ!!」
 無事に魂は戻ったらしいけれども人間外生物になってしまったかも知れないキンキン(そう言えば未だ本名を知らない)は、そう言って恐ろしい顔であたしを睨み付けた。何? 一体全体、どうしちゃったのーーー!? と、あたしは更に肩を竦める・・・ことしか出来ない。
 それにしても何を言ってるんだろう。サッパリ分からねぇ。どうしよう。そう思い、遠い目をしたあたしに、ぶつけるような声が聞こえてきた。
「抜け駆けは絶対にしないって、みんなで誓ったのよ。だから・・・だから我慢してたのにっ」
「・・・我慢?」
「それをあんた、あとから出てきて何て事・・・っ昨日言ったでしょ!? 早く、いなくなりなさいよ! ここではね。和を乱す女は生きていけないんだからね!」
 泣きそうな顔で肩に力を入れて、掠れた声で叫んだキンキン。とーっても興奮していて、どうにも言葉がハッキリしないんだけれども。
「わ? ・・・乱す? ああ・・・」
 最後の言葉を聞いて、あたしはようやく理解した。成る程、成る程。「和」ね。そういうことか。納得。やーっと理解出来た。スッキリー。と、思う。
 そして逆に、重くなった頭を抱えた。下らねぇー。そうなんだ。この子達。アホやねー。と、あたしは大きなため息。真剣なのは分からんでもないが、正直非道く呆れた。彼女達の詰まらない倫理観に。向き合う気にもならない。当然、話し合う気にも。言葉が通じないよりも厄介だ。こういう女って。だから拒否。断固拒否である。
「あたしには関係有りませんから。別に誓ってもないし、貴方の要求を飲んだ覚えもないし」
 そう言って、あたしは進もうとする。
 ・・・が、しかしお嬢様達は、どく気配なし。がっつりガードする姿は警備員もビックリな程の頑丈さである。困ったなぁと思いながら気付いて後ろを見ると、ホールに入れない人達が詰まってしまっているではないか。プチ渋滞。
「・・・あのー」
 みんなに見られてますけど良いの? と、思いながらあたしは言った。お嬢様達のためではなく、みんなの為に。
「申し訳有りませんけれど、そこ、通して貰えません?」
「あんた、分かってるの?」
 あんたこそ分かってるのか? 何をしてるのか。と、あたしは再び後続の人達を見る。みんな青ざめている。当然か。お嬢様達のご乱心。この世で一番厄介だ。
「貴族を甘く見ると、後が怖いわよ」
 視線を彼女に戻すと、キンキンはあたしの顔をこれでもかと睨んで低い声で言う。でもやっぱり、あたしは全然怖くない。何を言われてももう、彼女達自身に力を感じないのだ。虎の威を借る狐。ただ単に、家柄という後光に頼っているだけ。
 そんな小娘が何を言っても品位を下げ、つまらない女に成り下がるだけということを、やっぱり彼女は分かってないようだ。耳を疑うような、こんな事まで言う。
「あんたのせいでクリスロット様、どうなっても知らないわよ。こんなに多くの貴族に見切り付けられたら、幾ら王族といえどもどうなるか分からない訳無いでしょう? いくら世間知らずの貴方だって」
 知らん。分からん。興味もない。と、思う。昨日、気付かされましたし。他の誰でもない、王子のお陰で。
 大体あたしが大人しく言うことを聞いたからって、あんた達のやることが真っ当だとも思えないけど。まー。どうでも良いよ。あたしはほら、部外者ですから? そんなこと言われても、痛くも痒くもないんだよねぇ。お生憎様。それは、あたしが決める事じゃないよ。何かあっても、あたしをここに送り込んだリスや爺さんの責任だ。あたしに言っても駄目なのよ。残念でした。
 と思っても、何も知らない彼女は当然止まらず。
「さぁ。分かったら、あたし達の前に二度と姿を見せないと、この場でみんなに誓いなさい。そしてクリスロット様の前にも現れないってね。それがクリスロット様の為だと思えば、難しい事じゃないでしょ?」
 うーん、どこまで暴走する気なんだ。あんたは神か、それとも仏か。王なのか皇后なのか。何の権利があって、そんなことを言うんだ。どうしてそんなに偉そうなんだ。会ったばかりの王子だって、そこまで無茶苦茶じゃなかったぞ。超非常識人だったが。
 とにかく何が一番おかしいって、感覚や意識がずれている。どうも彼女達は、一個体としての意見や力を見ないらしい。家、貴族、王族、金。そういうくくりでしか、人を見ない。だからあたしは庶民のピンだというのに、そんなことも見えなくなっている。冷静に考えれば分かるはずなのに。そんな話をされても分からないし、どうにか出来るわけもないこと。そんな話をする価値もないこと。
 そう・・・。そういう意味では、無力な者同志のあたし達。なのに、どうしてあたしだけが、こんなに言われたい放題なの? 大体、あんたどんだけ偉いのよ。言いたいこと言いやがって。
 そう思ったら、急に面白くなくなった。
「・・・貴方は」
 あたしは顔を伏せ、小さな声で聞いてみる。これは何かあっても事を荒立てないように、あたしは弱いです大人しいですと見せる作法の先生直伝の態度。
 それは彼女の態度を煽るように大きくしたようだ。「ふん」という笑い声みたいなものが聞こえてくる。凄い。効果覿面だ。と思っているあたしは、つまり羊の皮を被ったオオカミである。
「あたしが同じ場所にいるのが、余程気に入らないようですね」
「そうよ」
 彼女はあたしが折れたと思ったのか、とうとう素直に笑って頷いた。いつだって彼女はこうやって、人を見下しているみたいに振る舞って。それが誇らしいと思っている、愚か者。こんな愚か者のせいで・・・。
 あ、そうだ。そうよ。そうだった。こんな女のせいで・・・こんな・・・こんにゃろーーっ!
 プッチーーーン。暢気な庶民。幸せな気分に隠されていた昨日の出来事を、今更急に思い出し始めた。そして遅ればせながら、いきなり怒り心頭。あれもこれもと噴火し始めた火山のように怒りの種は幾らでも飛び出してくる。幸せだっただけに、その怒りはこれでもかと勢いを増したわけでして。
 気が付いたら、あたしは歯軋りをしていた。先生が見たらお叱り程度じゃ済まなかっただろう。でも、今のあたしはそんなこと構う余裕など微塵もない。ぎりぎりぎりぎり。理性がもう少し少ない動物だったら、次の瞬間には噛み付いていたに違いない。
 そんなことを我ながら思うほど、あたしはこの時既に相当腹が立っていた。あたしはねぇっ。あんたのせいで、あんなに嫌な思いして、リスに嘘まで付き掛けて。そんな自分に恥ずかしい思いをして、大きな物を失いかけて・・・あ、あんたっ・・・あんたなんかのせいでーー!!
 そして我を忘れたあたしの思考はブレーキの利かなくなった乗り物の如く、あっさり「暴走」へシフト。後は野となれ山となれ。似非令嬢の気遣い言葉遣い振る舞いなんたらかんたならんか、有りもしない胎児の記憶よりも遠くへ、ぽーい! それはそれは、あっさりしたものでありました。そして「素」に戻った庶民の心境は以下の通り。
 事なかれ主義なんざクソくらえ! いつまでも黙っていると思うなよ!? 仏の顔も三度までだ!! 過去に二回仏の顔をしたかどうかは忘れたが、次に何かされたら切れるからな! 覚悟しろ!? と、心の中で宣戦布告。
 しかし、確かいつかもそうだったが、彼女はこんなあたしの心の内に当然全く気付く様子はない。よってすぐさま、オッケーサインをくれた。正に「いらっしゃーい」である。そう言っているとしか思えない、以下の一言。
「貴方と一緒に居ると、濁った空気に気分が悪くなるわ」
 はい。ありがとう。そこまで言われたら遠慮もなくなります。
「・・・そうですか・・・」
 がくん。あたしは一気に肩から力を抜いた。そして、そう、しおらしく呟いて彼女に近付く。きっと、気を落としたように見えたことだろう。くすくすと遠慮のない笑い声が聞こえてくる。
 そして対面、このヨロヨロとした危なげな足取りがわざとで、後々のダメージを大きくするためなどと言うことは分からないだろうなぁ。この世間知らずの、お嬢様が!! と心の中で恐ろしいことを叫んでいたあたしは、俯いた影で恐ろしい笑顔を浮かべていたりしたわけで。
 やがて、あたしは難なく彼女に接近することに成功。そして俯いていた顔を上げ、至近距離から彼女の顔を下から睨んで、低い低い彼女にしか聞こえない声で言ってやった。
「だったらお前が消えろよ。この馬鹿女」
 って。これは自分で言うのも何ですが、今までで一番と言っても過言でないくらい会心の出来でありました。
 そして一方、多分かつて聞いたこともないであろう、その言葉とドスの利いた声に彼女達は。
「・・・」
 唖然。そして呆然である。
 その目も口もまん丸にした令嬢達をあっさり通過して、あたしは「けっ」と呟いた。どうだ。本物の啖呵を見たか! ・・・みたいな気分である。あんた達みたいな中途半端には真似出来ないだろう! 位の胸の張りようである。威張り所がおかしいとか、そんなことは関係ないのである。勝ったと思えば勝ちなのである。それが得るものも失うものも何もない庶民の特権なのである。粗相なんて言葉は知らない。忘れた! それで全て終わってしまうのが庶民という人種の特徴なのである。
 よって、残るものといえば後悔ではなく貧乏自慢。
 残念だけど、こちとらそんな言葉にめそめそするほど柔な人生送ってきてないんだよ! 考えてもみろ。お婆ちゃん死んで一人きりになって。悲しみから抜け出した頃、硝子の靴を壊して連行軟禁。メイドさんや爺さんとの戦いをこなし、五人の先生に手取り足取りここまで改造されたんだ! くっそー! あの硝子の靴のせいで!!! そもそもあれのせいでーっ。仕事? 一億? 分かっちゃいるけど、大人しく納得出来るかぁー!!
 ・・・と、更に腹が立ってきた。あの爺さんに。令嬢? んな小物、どうでもいいわい!!! そんなあたしに怖いもの? あるもんか!!!




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