硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 22、感動と混乱と怒りのフィナーレ。

 言葉では表せない気持ち。それは時に、全てを支配する。
「レイラ」
 鼻息荒く会場に入ると、気付いたリスはあたしを呼んだ。その声に導かれ、視線を向けると目が合ってから彼は微笑む。息苦しくなるほど、優しく。肌で感じるほど、暖かく。
 その声に触れ、笑顔に触れ、あたしの心は急速に柔らかくなる。優しくなる。ああ、ちょっと可哀想なことをしたかな? と思うくらいの余裕を持つ。
 彼は、あたしを見る。目を反らさない。決して。他にも沢山見るものはあるだろうに。こんなあたしよりも。そう思うのに。そう思うからこそ。
 だから逆らえない。その視線に。
「おいで」





 庭園では人々の流れが僅かに正常に戻り始め、しかし戻らない者も多々入り交じり。
 そこはまだ、僅かな騒ぎの名残を残していた。
 そして怒りも。
「・・・お姉様に、言ってやる」
 一瞬驚いてしまった自分を恥じるように、そして怒りのため、頬を真っ赤に染めて一人の令嬢は呟いた。そこにはある種の執念が確かに浮かんでいる。危ない橋を渡ってでも「彼女」だけは許さないと言うプライドと怒りの産物。
「見てなさい。有ること無いこと言って、お姉様に引き離して貰うんだから・・・っ」
 震える肩は、声にまで伝染している。まるで何も見えていないかのような怒りに満ちた目の光りに、ある令嬢は同意し、ある令嬢は後ずさった。
 その感情に気付かないその他の者達は、ゆっくりとその決戦の場になるであろうホールに向かって進み始めていた。何も起こらなければ、煌びやかで優雅なその会場へ。
 その人の流れを見て、令嬢は決意を再び呟く。
「滅茶苦茶にしてやる。あの女に幸せなんか」





 差し伸べられた手に、そっと手を乗せる。そして包まれる感触にすら、胸が高鳴った。
 夜を越え、リスに触れた体は一層疼く。最早理屈も理由も、何も無いまま。
 これは、何だろう。体に残った感触と、熱と、痛みと、声が、あたしを叩く。その名を呼べと、理解しろと、叩く。
 でも分からない。リスが、分からない。自分のことも、分からない。
 あたし達は一体、どうして触れ合うんだろう。まるで求め合うように。





 外では、ホールに向かう来客と、流れに逆らう令嬢達。
 その相対する流れの中に、出会うべき者達がいた。
「何かしら? この混雑」
 そう言いながら最愛の人を見上げた一人の女性は、騒ぎを知らぬ者の内の一人。そして令嬢達の待っていた人。
 彼女は美しく、儚げで。そして華やかで。それは一度会ったことのある人間の目をも惹いた。彼女のために道は開き、彼女に全ての視線が集まる。もしも小さな社会と例えるなら、正に彼女を中心にそれは回る。
「お姉様!」
 よって素早くその姿を認めた複数人の令嬢達が、彼女の元に集まった。どんな輝きの中にいても、どれだけの女性に囲まれても、彼女の輝きは失われない。何人もの女の中で色褪せるどころか、彼女は一層輝きを増したように見えた。
「あら、御機嫌よう」
 にっこり。笑って彼女は言った。しかし令嬢は泣きそうな顔をしたまま彼女に縋り、悲鳴のような声を上げる。
「お姉様。御挨拶を省いてお気を悪くされないで下さい。どうか聞いて下さいませ。クリスロット様が・・・っ」
「? クリスが?」
 どうかしたの? と、彼女は驚いたように令嬢の顔を見た。





「お前に会わせたい人がいる」
 手を引き、リスはあたしに笑って言った。
「会わせたい人?」
「会いたがってた人だよ」
 ここで。そう言ってリスは、また笑った。
 ・・・ここで?
「もうすぐ着くと思うんだけど・・・」
 彼はそう言うと、あたしから顔を逸らし、遠くを見るように目を細める。
 会いたがっていた人? 誰・・・? と、その横顔に問いかけかけて、気付いた。
「え? ・・・?」
 ちょっと待って。何を言ってるの? リス。あたしが、ここで会いたい人? そんな人、いる筈が・・・。

「レイラ!」



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