硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

 言葉では表せない気持ち。それは時に、全てを支配する。それを感じる気持ちが実感。混乱、驚き、喜び、安心。
「・・・はい?」
 何故、どこかで聞いた気のする声が、ここで聞こえるんですか? そう思い振り返った先には・・・シュリア。
 ・・・シュリア!? 何で!? どうしてシュリアがここに!?
「あああああれ?」
「レイラ! 会えて嬉しいわ。やっぱり元気だったわね。良かった」
 あたしの混乱をよそに、そう言ってシュリアは笑った。優雅に、可愛らしく。・・・いや、彼女は何もしなくても可愛いのですが、本日はこれまた一段とという意味であります。
 それを賛美するように、フワフワとしたドレスの裾は、まるで遊んでいるように靡いた。ああ、綺麗。そう。正にファーストレディとして申し分ない仕草。雰囲気。全てを変えてしまう程に。
 つまり、今日の彼女はパーフェクト。姿形どれをとっても、全てが最上級で申し分ない。知り合いであることが申し訳なくなるくらい、何処までも何処までも美しい。
「えええええ?」
 一方庶民百%超。
 な、あたしは一体何が起きているのか、全然分かりません。という顔でリスを見上げた。このわけの分からない状況で、他に出来ることなどあっただろうか。いや、無い。格好悪いのが分かっていても、あがあが言うのが精一杯だ。他に言える言葉などあっただろうか。いや、無い。
「・・・え?」
 リスは、そんなあたしの顔を見てそう聞き返す。そして続いた「どうかした?」という彼の言葉は。
 瞬時に、どこかへすっ飛ばされた。
「レイラ!」
「わっ」
 そう言って抱きついてきたシュリアを、あたしは思わず抱き留める。ビックリするほど軽くて優しい感触。
 そして、ふわりと香る、パーフェクトフラワー。シュリアの香り。ああ、やっぱり間違いない。シュリアだと思う。彼女が纏うからこそ、この香りは意味を持つ。
 その香りに、束の間癒された。泣きたくなるほど、彼女と共にあるこの香りは心に沁みる。
 ふと気付けば、その周りには呆然とした埴輪顔の令嬢様達が・・・あららら。凄いお顔。面白いを通り越して、笑えないくらい凄い顔になっている。怖い物見たさで目が離せない。
「心配していたのよ。でも、貴方なら大丈夫だと思ってた」
 しかし聞こえたその声に呼ばれ、シュリアへ視線を戻すと、もしかしたら埴輪効果かもしれないが、彼女の笑顔は本当に金を払っても良いくらいに輝いて見えた。男だったらコロリと落ちるだろう。なんてったって一瞬、自分が男じゃなかったことを後悔したくらいである。間違いない。
「ありが・・・ええ?」
 反射的に礼を言いかけ、そんなことをやっている場合じゃないと気付く。問題は、どうしてシュリアがここにいるかだ。それが理解できない以上、再会を楽しむ余裕なんてあるわけがない。リスが「会わせたい人」というのは、彼女だったに違いない。でも、どうしてここに。あたしが居ることもおかしさ満載だが、彼女が居ることもおかしいでしょ? ね? そうでしょ? だって彼女、メイドさんだったもん!
 だから、あたしはもう一度リスを見上げる。彼なら答を知っている。ねぇねぇ。どうなっているの? 答えてよ。そう思いながら、ひたすら見上げる。
「???」
 リスはしかし、いつものように表情だけでは分かってくれなかったようだ。どうかしたのか? お前。と、また言って、そしてシュリアに不思議そうな顔を向けた。
 シュリアだけが全てを理解し、笑ってとんでもない事を言う。
「やだ、まだ話してないの? クリスったら。レイラ。姉弟なのよ。あたし達」



 姉弟。



 へぇー。そうなんだ。成る程ねぇー。
 と、言いかけて固まった。
 ・・・姉弟ーーー!!??
「そのこと? まだ話してなかったの? 何で話してないんだよ。とっくに話しているかと思った」
「それは、こっちの台詞。どうして気付かなかったの? 見れば分かるでしょ?」
「分かるか」
「駄目ねぇ」
 とかなんとかいう二人の会話に割って入って、あたし。
「なななな。何言ってるのシュリア。貴方、だって・・・だってメイドしてたじゃないのーっ!」
「レイラがどんな子か見に行ったのよ。メイドの方が本当の姿が分かるでしょ? それにしても楽しかったわね。また遊びましょう」
「リス! あああ、あんた、シュリアは資格を失ったとか訳のわかんないこと・・・っ」
「・・・どんな誤解してたんだか知らないけど。つまり他国に嫁いだから、うちの国での権力は失ったって事だよ」
「シュリアが居た時、態度が変だったじゃない! あんた、おかしかったじゃない!」
「姉貴だぜ? どこにでも入ってこれるし、その・・・それまでみたいに好き勝手してたら何を見られて何を言われるか・・・」
 大体、お前なぁ。と、リスは呆れた顔で何かに気付いた模様。溜め息一つ付いてから、こんな反論を返してきた。
「シュリアはここに来たこともあるって、言っただろ。何で気付かないわけ?」
 勝手に陥落したどこかの令嬢だと思っていました。とは恥ずかしかったり頭に血が上っていたりで言えないあたし。今度は標的をシュリアに移し、ヒステリックな声を上げる。庶民とか王子とか姫とか、そういう物は今までもなかったし今もない。きっと、これからも無ーーーい!!
「香水だって、もう貰えないって言ったじゃないの! けけけ、結婚してるんでしょ!? 相手いるんでしょー!? 金持ちなんでしょー!?」
「貰ったわよ」
 ニッコリ笑って、シュリアは後ろに控えている旦那(つまり、こっちも王子)を見る。彼、一人真人間っぽい。それなのにこんな、おかしな三人組を優しく見守ってくれて有り難う。
「でもね。もう無理なのよ。あの香水を作るのに使われていた花がね、絶滅の危機で捕獲禁止になっちゃったから」
 そして「本当に残念だわー・・・」と、儚げに呟くシュリアを、こんな時じゃなくてあたしが男だったら、何をどうやっても助けて上げようと思うに違いない。花一本求めて「この世の果てまで行ってきます!」と、たった今叫んでも良いくらいだ。
 でも違うから。今、状況が色々違うからね。うん。
「あ・・・ああ・・・」
 あんたらアホじゃないのーーー!!!?? そんな理由であたしは物凄い誤解をして・・・いや、むしろさせられていたんかーーーい!!? と、メラメラ。胸の中で高温の何かを燃え上がらせるのが精一杯。
 絶対わざとだ! わざとだー!! この詐欺師ー!! と、思いっ切り叫びそうになったあたしの口を、慌ててリスが塞ぐ。ナイスフォロー! ・・・とか言ってる場合かボケ!! もっと前にフォローしろーーーー!!!
「何で!? 何で姉弟なの!?」
 手を外し、あたしはリスに食ってかかる。訳の分からない疑問だと自分でも思うが、最早苛立ちの矛先はそこにしか向かない。向きようがない
「・・・何で?」
 案の定、お前は一体何を聞きたいんだ。という顔をしてリスが言う。
「あたしが先に生まれて、クリスが後に生まれたからよ」
 後ろから、シュリアの暢気な回答が聞こえてきた。そんなことは分かってるわーーーい!!
「嘘。嘘嘘嘘。何これ。何なのよ。どうしてよ。ねぇ。何でこんな事になってるのよーぅ!!」
 混乱に身を任せ、頭を抱えて叫ぶあたしは、けれども安心感という、多分そういう気持ちも感じられていて。
 そう。もしかしたら、全ては上手くいった。・・・のかもしれない。これって最高のエンディング・・・なのかもしれない。その幸せを噛みしめるのは、ちょっと後の話っていうだけで。
 つまり想像もしていなかったこれを噛みしめるには、あたしにはちょっと落ち着きが足りなかったってだけで。
 ・・・でも、たった、それだけのこと。



 この後、令嬢達の御乱心がそれぞれの両親やら親族やらに「当然」ばれ、あたしの元に土下座をせんばかりの貴族のおっちゃんやらお爺ちゃんやらセレブやらが殺到したが、そんなのどうでも良いので見ざる言わざる聞かざるを決め込み、逃げた。だからね。あたしじゃなくてリスと爺さんに言ってよ! あたしには関係ないんだからーーー!!

 しかしその言い訳は、後に間違いだと判明。




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