硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2。

「・・・へ?」
 ・・・困る?
 予想外のその言葉に、あたしは暫し沈黙した。・・・何で? 困る? どして? 何が?
 しかし、考えたところで答は出ない。
「・・・何故ですか?」
 あんたの言っていることも全然分からん。そう思いながらリスを見上げる。
 その目が合うと、リスはため息を付いて肩を竦めた。なにやら複雑そうな表情で。
「何故? ・・・あのなぁ。じゃあ聞くけど。お前は自分の恋人が日々虎視眈々と脱走の機会を狙っているのを温かい目で見守るのか?」
 その言葉を聞きながら、今、多分彼はあたしと同じ気持ちなんだろう。と、理解する。こいつ、何を言っているだろう? そんな気持ち。
 きっと二人、そんな表情で顔を見合わせる、夜の城の中庭。眩暈を覚えそうな、穏やかな風が吹く中。
「え?」
 何それ。何その疑問返し。と、あたしは顔を顰めた。こっちが質問しているんだから、こっちの質問に答えろよ。と思う。知るか。そんなこと。お前のこい・・・。
 ・・・と、そのリスの言葉を反芻しかけて。
 ・・・はい?
 それが答だとようやく気付き、止まる。
 いや、その言葉の意味が理解できなくて、止まる。
 ・・・こい?
「・・・・・・え?」
 こい? え? 何て言ったの? こい・・・?
 そして、ぱかっっ。と開いた口が塞がらない。
 ・・・恋人?
「どうなんだ?」と、もう一度問われても、そこはどうでも良い話。いや、それ以前の話。
 どういうこと? それ、あたしのこと? と思ったあたしの頭は、次の瞬間真っ白になった訳でして。
「? おい?」
 その視界に、彼の顔。顔を覗き込まれて。目が合って。
 それがつまり、彼が言うところの恋人であることを知って。
 それがリスだと、やっと繋がって。
 つまり、リスは、あたしの、こ・・・。
 こー!?
「ここっ、恋っ!? 恋ー!?」
 あたしの顔は、真っ赤っか。
「・・・は?」
 目を丸くして叫んだあたしを、リスは怪訝そうな顔をして見ている。いやーっ。何言っているの貴方!!!
「ここ、恋っ。ああああなたね。あなたねっ。一体何を! あたたしは、あたしはっ。好きだとも付き合って下さいとも一度たりとも言われたことはっっっ」
「好きだよ」
「今言うなー!!!」
 しかも何!? その棒読み! どさくさに紛れて言いましたみたいな告白はーっ。ちちち、違うだろう。告白ってヤツはもっと・・・良く分からないけど、もっと違うでしょー!?
 と、心の中では言いたいことを叫びまくっていたモノの、ジタバタともどかしさを身体で表現する以外、実際には何も出来ないあたしを見て、リスは大きなため息付いた。
「・・・何を今更。とっくに分かってると思ってた」
 ホントにもー。どうしようもないんだから。と、リスはあたしの頭をグリグリ撫でる。
「お前、そんなこと今まで考えてたの?」
 そ、そう言われると面目ない。
「あんだけ行動で示しても、分からなかった?」
 そ、そんな言い方しないで。受け止めていた自分がアホみたいじゃないか。
「脱走癖があるのかと思ってたけど、何だ。そんな理由だったのか」
 というリスの言葉には、もう返す言葉もありません。ああ、そう。そう見えてたの。みたいな納得。道理で、おかしいと思った・・・。なんて、納得すらしてしまうあたし。それ以外に出来ることなんてあっただろうか。ある訳がない。もうどうにでもしてくれ。って感じ。
 そして自分にもリスにも呆れて遠い目をしていたあたしは当然、リスが何かに気付いたようにちょっと眉間に皺を寄せたことに気付かなかった。
「ってことは、まさか・・・今回お前、どういう立場にいたのか分かって・・・なかった・・・ってこと・・・」
「え?」
 力のない声に顔を上げ、はい? 何? という顔をしたあたしを見て、リスは苦笑い。
「ある・・・よな。やっぱり」
「うん?」
 分からない。なーんにも分からない。と首を傾げたあたしに比例して、更に引きつったのはリスの笑顔。一番最初、あたし達が出会った時の表情に似ている。呆れたような、珍しいものを見るような、そして今回は加えて困ったような。・・・そんな表情。
「あのね。あの場所にね。・・・他の国の集まりに、わざわざ女を連れていくって事は・・・」
 それでなくても今回のは大規模だからね。とまで付け加えて、あたしが分かり易いように説明してくれようとしている模様。あたしは大人しくふんふん言いながら聞いていた。
「俺達はね、そういう関係だって無言で言っているようなもんなんだよ」
 そりゃ、例外も有れば、そういうことに構わないお嬢さん達も沢山居るけど。と、ため息混じりで言ってから最後、リスはガックリ脱力。随分お疲れの御様子だ。この僅かな時間で。
 まあ、そんな彼の疲労なんて、どうでも良いんだけど。
 ・・・ふーん。あら、そう。で?
「そういう関係?」
 申し訳ないが、まだちょっと分からない。放っておくと力尽きそうなので、その前に教えて貰おうと、リスの顔を覗き込む。
 それに対して彼は「まだ分からないの?」と、げんなりとした表情で呟いた。
「恋人って事」
「こいっ」
 その返答に。
 当然というか何というか、ぼっ。と、あたしの頬はまたしても加熱強。何よそれ。何で周りばっかりそういう認知なの!? っていうか、周りはそう見てたってこと!!!??? 嘘!! ぎゃーっ!!! 恥ずかしいーーー!!!
 泣きたくなるほど熱いほっぺたを隠すように両手で覆って必死に隠してみるも、当然リスにはバレバレの様子。
「・・・お前なー。いちいちそんな言葉に過敏な反応するな」
 なんて言葉には、物凄く呆れた気持ちが含まれていて。カチンとくるよりも更に恥ずかしくなって。
 あたしは泣きそうな声で叫んだ。
「だって、あんたっ。仕事だってっ」 
「交流の場に出ることを仕事って言い方、普通にするからねぇ。別に労働っていう意味じゃなかったんだけど」
 さらりと言わないでよ! ちょっと、嘘でしょーーーー!!!???
「まま、まさ、かっみみ、みんなそれっ、それ分かってて、あたしに、お勉強させてたの!?」
 メイドさんも爺さんもシュリアもリスも!?
「勿論」
 先生達もー!? そりゃ大層、気が気じゃなかっただろうねーっ!!!
 ・・・あははは。はははは。・・・絶対おかしい。この人達あははは。と、笑っていたあたしに。
 というか、もう笑うしかなかったあたしに、リスは言った。
「ホントに今更・・・社交界デビューまでしておいて、何言ってんだか」
「しゃ!? 何それ。何勝手にデビューさせられてるのよ!?」
 事務所通してよ! 親の確認取ってよーーーー! と、訳の分からない抗議したあたしを「はいはい」と、何がはいはいなのか分からないけれど呟き、抱き寄せてリスは言う。
「お前、本当に何も知らないんだなぁー・・・」
 よしよし。良い子。良い子。とか言って、あたしの頭を撫で撫で。赤ん坊か! あたしはー!!!
 と、思いつつ、あたしもどさくさに紛れて抱きつく。縋るように、甘えるように、ぎゅーって抱きつく。だったら離さない! 離してやるもんか! と思いながら。ここまで来たら、後に引けるか!!! ずっと側に居てやる嫌って程ーっ!!
 そして照れ隠しに叫んだ。
「知らないよ! 知るかーーーー!!!」
 だから庶民だって言ってんでしょーーーー!!!
 叫んだ声は、晴れた夜空に消えた。




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