硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 捕獲の真実。(本編10−1中盤の話。リス目線)

 それは頬の傷が完全に癒え「彼女」が居ることにも慣れ始めた頃。

「・・・何してんの?」
 壁にぴたりと張り付いているメイド達に、後ろから声を掛けた。三人。上中下と綺麗なラインを作って、向こう側を見ようとしているようだ。・・・で、一体何をやっているのか。生まれた時からこの城で生活しているが、こういう状態のメイドを見るのは初めてである。
「しーっ」
 すると彼女達はこっちを見ることもなく、人差し指を口の前で立ててそう言った。多分、自分だと知らずにやっているんだろう、と察する。別にそんな事に腹を立てる要素もないので、どうでも良いのだけれど。
 さて、彼女達はしつこく壁の向こうを顔を半分だけ出して伺っている・・・と思ったら、すぐに引っ込んできだ。何かあったというわけではなく、条件反射的なものだった模様。一番下でバランスを崩しかけた同僚を、上の二人が小声で非難している。
 皆揃って、素早く流れるような綺麗な動きだ。異様さは隠せないけれど。
「?」
 気になって彼女達の向こうを窺った。すると邪魔されたと思ったのか、三人が一斉に自分の服を掴んで引っ張った。結構、遠慮のない引っ張り方。まだ至近距離だから上半身が逸れただけで済んだが、そもそもこんな扱いを受けたことは生まれてこの方、無い。殴られることは、最近初めて体験したけど。
 さて、メイドはまだ気付いていないらしい。
「駄目っ」
「もしいたら、ばれ・・・っ」
 と、二人目までが叫んで気付いたようだ。
「クリスロット王子!!!!????」
 前の二人が息を吸い込んでいる間に、三人目が叫んだ。そして、目をまん丸くしたメイド達は、一斉に平伏すように床に額を付ける。
「申し訳有りません!!」
「どうかお許しを!!」
「えっと・・・ごめんなさい!!」
 どうやら三人目は、言う言葉を失ったらしい。一番相応しくない言葉を叫んで、他の二人よりも深く平伏した。
「い、良いけど。何やってるの?」
 引っ張られた拍子に少し圧迫を感じた喉元をさすりながら、俺は言った。最近、色々なことがあるなぁと思いながら。
「あっ」
「そうだっ」
「レイラ様!!!」
 こんなに騒いでおいて今更何をやっても無駄だろうに、彼女達は再び壁に引っ付き、ちゃんと半身を隠して三人仲良く向こう側を伺った。そして、誰もいないことを確認。顔を見合わせてため息を付いた後、再度の失礼にも気付き、再び大きな声で謝罪の言葉を口にした。
 俺はその、悲鳴みたいな謝罪を聞き流して改めて思い出した。レイラ。初めて自分の顔面を殴りつけた庶民で女のあいつだ。と。彼女は今、怪我をしている為、療養中の筈。
 ・・・筈、だけど、この様子を見るに、大人しくしているとはまた別であるようだ。まあ、そろそろ怪我は完治に近付いているだろうし、そこら辺を歩き回るくらい何でもないんだけど。と、安心と不安・・・というか、彼女の周りに起きることに対する心配で思わず苦笑い。
 その溜め息に気付いたらしい。
「最近レイラ様、御様子が面白・・・じゃなかった。おかしいんです・・・」
 神妙な顔つきで、フォローのつもりか、顔を上げた右端のメイドは呟いた。
「何が面白いの?」
 正確な方の言葉を拾って質問すると、彼女は否定することもなくそれを思いだしているかのような、ちょっとした笑顔でこんなことを言った。
「ノックをしてドアを開けると、怯えたように縮こまってらしたり」
「あ、この前はカーテンの後ろに隠れてました!」
「テーブルの下でプルプルしていたこともあります!!」
 我先に、と、一言溢れ出すと、彼女達はあれもこれもと報告してくれる。
 彼女が来てから、こんなやりとりが増えた。「朝、食事の支度に言ったら大暴れした」とか「髪を結っている最中に我慢が出来なくなったらしくて暴れた」とか「着慣れない服が嫌になったみたいで暴れた」とか。そんなのばっかりだけど。
 それにしても彼女達こそ、前からこんなんだったかなぁと思うが、それはそれで面白いので今はこのままにしておく。仕事をキチンとしてくれれば、別に文句もないわけで。
「・・・へぇー」
 それよりも、今はあの庶民の方がダントツに面白いのも真実なわけで。
「レイラ様だから、良いんですけどーーー」
 と、自分と同じ気持ちなのか、彼女達は声を揃えてそう言った。餌を待つ、小鳥のようにも見えた。
「それで今は、何やってんの」
 それにも笑いそうになりながら、俺は察してはいることを敢えて口にする。案の定、彼女達はこう答えた。
「部屋から抜け出されまして」
「今、従業員総出で捜索しております」
「誰が一番に見付けるか、ちょっとした競争になっていまして」
「・・・」
 主達の昼食後。この時間は多くの家来達にとって、束の間の昼休みの筈である。それを返上しても良い面白さが、この鬼ごっこにはあるらしい。レイラがおかしな程捕まった裏には、こんな事情があったわけで。
「ふーん」
 まあ、逃げられないだろう。と、本来逃げても良いはずの彼女を思った。ご愁傷様。とも。
 逃げる原因や変な行動の理由は分からないわけでもないが、それは自分と彼女だけの秘密。後はメイドその他に任せて・・・というか、楽しんで貰おう。なんて、従業員思い(?)なことも思ったりして。
「まあ、頑張って」
「はいっ」
「有り難うございますっ」
「頑張りますーーー!!」
 笑顔、笑顔。そして笑顔。本心から楽しんでいるとしか思えない笑顔。彼女達の顔は輝いていた。
 それを見て、思う。まあ、みんなが楽しそうなのは良いことだ。と、約一名には我慢して貰うことにした。もしも自分が見付けられたら、またからかってやろうかななんて思う辺り、それが楽しいことだとも知っているから。

 それがこの後叶うのは、彼もまだ知らない話。

 触れ合うことを重ねて、この関係が変化するのも、まだ二人とも知らない話。




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