硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 2、王子、先を読む。

「ええ、結構強引にお連れしたことは確かでございます」
 その日の夜。執事はそう言って「ふぉっふぉっふぉっ」と笑った。しかし罪悪感は皆無の様子。
「何を申し上げても聞く耳を持ってらっしゃらなかったので」
 などと、言い訳でもない当然の口調で、そう付け加える。
「・・・ふーん」
 そう。と呟いてリスは頷いた。納得。何が納得かって、彼の言葉全てに納得である。そもそも彼は、本当のことを隠すことがあっても嘘は言わない。そういう点では、本当に信頼しているから。・・・けれども。
 それ以前に彼の言葉に疑う場所がない、というのが正直なところ。初対面の時を思い出せば、彼女がそうであったことは火を見るよりも明らか。あのお嬢さん。何から何までアクティブで凄いんだから。そういうところも、好きだけど。
 ・・・不思議なもんだよなぁ。壁により掛かり、思う。改めて考えてみれば信じられない状態になっている、今現在。結婚から逃げたかっただけで言った筈の冗談が、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。それが彼女じゃなかったら・・・なんて、それこそ想像は出来ないけれど。
 とにかく彼女は全てにおいて、自分の人生における意外そのもの以外何物でもない。彼女のやることは、未だぶっ飛んでいる。どんなに長く一緒に居ても、きっといつまでも刺激的な存在であるだろうと思うほど。
 そんな彼女に、こんなに夢中になってしまっている自分。過去の自分にしてみたら、それがきっと一番の予想外だっただろう。しかも、未来を真剣に考えるほどまでになるなんて。
 それを彼女は、分かっているのだろうか? 分かっていないかもしれない。分かっていないと思った方が良いかもしれない。何たって、あのお嬢さん。根っからの庶民で無欲で正直で素直なお子様だから、分かっているだろう事だって分かってないことが幾らでもあるんだから。そういうところも、可愛いけれど。
 そんな、彼女。それでも不安は僅かも無い。未来は夢と希望と・・・予想外に溢れているだけ。だから彼女を手放す気はない。例えどんなに予想外なことが起ころうとも。人は、きっと慣れていくから。
 でなきゃ「こんな所」で執事と話をする事になるもんか。
「こん、ばん、はーーーっ」
「わっ。れれ? レイラ様!?」
 そのやり取りが聞こえて、二人は顔を見合わせた。そしてガックリ肩を落とす。
「・・・来たな」
「いらっしゃいましたね」
 予想通り。
 二人は張り込みをしていた従業員用の入り口付近で、小さなため息を付いた。ほらね。慣れてくるんですよ。人間は。


「お願いー。ちょっとだけで良いからー」
 デジャヴ? 勿論感じてますとも。ええ、ええ。
「む、無理ですよ。駄目ですよ」
 そう。説明するまでもないが、ここは裏門の前。あたしが「外に出る可能性」を感じられる、唯一と言っても良い場所である。
 そこを守るべき門番は、多分有り難くない来客のあたしに向かって、慌てて槍を持っていない左手を団扇のようにブンブン振った。その人の良さそうな反応に、思わずあたしの期待も膨らんでしまう。
 あたしは拝むように手を合わせて言った。
「お願いだってば。すぐ戻るからー」
「ま、またですか? またそういうこと、仰るんですか?」
「でも前回だって通してくれなかったじゃない」
「そういう問題じゃないですよ。・・・あ、まずいですって。早くお部屋にお戻り下さい」
 オロオロしながらそう言った門番さんが、実はあたしに背後からリスが近付いているのをさり気なくそっと教えようとしているなんて、当然気付きようもない、あたし。愚図るように頭をブンブン振って叫んだ。
「まずくない。全然まずくないーっ」
「ま・・・まずいんですって」
「どうして? ちょっと、ちょーーっとで良いんだよぅーっ」
 ジタバタジタバタ。有り難い筈のアドバイスも聞かずに、ひたすら愚図るあたしの前。「あ、もう駄目だ」そういう表情で門番さん。「いつかのように」遠くを見つめた。
 そして呟く。
「・・・まずいですよね」と。
「へ?」
「だから、分かり切ったことを聞くな」
 これまた「いつかのように」。
 あたしの後ろから、答えが返ってきた。
 ・・・・ぎく。あれ? このパターンは。
 そして、頭をがっしりと捕獲される。いたっっ。あれ? あれれれれ? こ、これは以前にも・・・っていうか。
 ここここれは、デジャヴどころの騒ぎじゃないよーっ!?
 でも、取り敢えず確認。そしてあたしは呆れ顔のリスと目が合い、やっぱり「うぎゃっ」と悲鳴を上げ、やっぱり「変な悲鳴を上げるな」と怒られることになった。 




 そこに座りなさい。そう言われて座ったのは、革張りのソファ。お婆ちゃんに怒られる時、外に追い出されるか冷たい床の上に正座させられていたあたしは、こんな所で本当に怒られるんだろうかと反省よりも動揺。
 そのあたしの横にリスが座って、大きなため息を付いてから言った。
「お前なぁ」
 そう言って、さっきしたようにグリグリあたしの頭を撫でてから、目を間近で覗き込み、こう言う。
「もう一度聞くぞ。何で、戻りたいなんて言うんだ?」
「・・・うー・・・」
 しかし、あたしはその視線から逃げるように、ゆーーーっくり顔を逸らした。リスがね。もう一度チャンスをくれているのは分かってる。そのきっかけを、ワザとくれていることも。でも、ね。言えないの。
 あたしは小さくブンブン首を振る。言えない。言いたくないもん。だから。
「おいって」
 そのあたしを追ってくる、リスの声。でも、無理矢理その視線を戻したりはしない。こういうところ、本当に優しいと思う。感謝もしてる。だから余計に・・・言いたくないんだよぅ・・・くすん。
「・・・何となくー」
 そして出てきたのは、誰が聞いても本音だとは思わないであろう、こんな言葉。言わない方がましである。だって、嘘だもん。要するに、嘘だもん。
 実際リスは、その言葉に大きなため息で返事をしてから、こう言った。
「何となく・・・ふーん。そう」
 分かったよ。そう言って、リスは諦めたように話を終えた。あー。怒らせちゃったかな。怒らせたりしたくないから黙ってたのに、それで怒らせちゃうなんて困ったもんだ。うう、憂鬱。
 でも、どうも怒ってはいなかったらしい。 
「じゃあ、な」
 しょうがないから。そう言ってリスは、また大きなため息を付いた。「もうどうにでもしろ」なんて言葉で突き放されないだけで、どんなに安心することか。こういう心の広さには、日常的に感謝である。
 しかも、譲歩とも言うべきこんな言葉が後には続いた。
「条件付きで、許してやる」
「・・・条件?」
 ・・・ホント? 条件なんか、付いても構わない。一度家に戻れるなら。
 そう思ってリスに振り返ると、現金だなぁ、お前。そう言って、呆れたような顔をする。
「じょ、条件て何?」
 その嫌味も無視して、あたしはリスの顔を覗き込んだ。それをどう思ったのか、リスは一層呆れたような顔をする。
「そんなに戻りたい理由があるなら正直に言えばいいのに」
 それが言えるなら苦労しない。そういうあたしの気持ちを分かっていたのだろう。リスは、あたしの言葉を待たずに条件を口にした。
「一人じゃ帰せない。人を付ける」
「だ・・・誰?」
 大概の人は許せる。でもあの爺さんだけは嫌だ!
 そう思い、ドキドキしながら聞いてみた。他の人なら誰でもオッケーー!! そういう気持ちでいた・・・のだが。
「俺」
 の言葉に固まった。思わず耳を疑い掛けたが、自分を指さしているので間違いないだろう。そう思うまでには、しばしの時間を要した。
「・・・え」
 ・・・リス? それもまた、予想外。あんた王子でしょ? 何、庶民の付き人しようとしてるのよ。姉弟揃って困ったもんだ。本当に・・・ってか。
「・・・えー!? やだーっ」
 あたしはブンブンと首を振って言った。爺さんよりはマシだ。大分マシだ。本心から嫌がっているわけではない。でも・・・でもでもでも。
 でも、ハッキリ言ってリスの部屋よりも小さい家。見られたくなーい。ビックリするもん。こいつ。 
「大丈夫だよ。そんなこと驚かないって」
 お前、余計な心配だけは良くするな。と言って、リスはあたしの頭をまたグリグリした。
 ・・・あら、あたしまた言ってた? と思う。あたしはどうも、思っているつもりだけの事が口からポンポン飛び出す人間らしい。気を付けよう気を付けようと思っているのだが、無意識のことでどうにもこうにも。
 うぐぐぐぐ。と、時既に遅しだが口を手で閉めたあたしに、リスは言った。
「丁度良いや。お前の育った場所、見たいと思ってたからさ」
「・・・あの・・・でも本当にビックリするくらい極小だよ?」
「別に、棺桶並に小さい訳じゃないだろ?」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
 うーん・・・。思わずそう唸ったあたしに、リスは言った。
「まあ、どっちでも良いや」
 そう言って立ち上がる。
「後は好きに決めなよ。でもまた逃げ出そうとしたらー」
 その時は、お仕置きだからね。と、リスは言った。お仕置き? リスのお仕置きは余り怖くなさそうだ。いっそ逃げ出してしまおうか。などと思ったあたしは、本当にどうしようもない人間です。はい。
 しかしリスは、そのあたしを理解し、更に上をいっていた。
「先生達に頼むから」
「ぎく」
 ・・・あの、あたし、また言ってた? あはは。と、引きつった笑いで顔を上げたあたしに、リスはニッコリ微笑む。
「お前の考えていることなんか、お見通しなんだよ」




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