硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 閑話。王子の心、庶民知らず。(リス視点)

 ちょっと髪伸びたかなぁー?
 後ろ姿でも分かるくらいにプンプンしながら、ちょっと前を行く彼女の揺れる髪の毛を見る。まるで知らない人みたいに自分を無視をして歩く、庶民の格好をした彼女。何だか生き生きして見えるのは気のせいだろうか。それとも彼女の生い立ちが為せる技なのだろうか。それはそれで、ちょっと寂しい気持ちがある。いつか彼女は、この格好をすることに誰もが違和感を覚えるように変化するんだろうか。そんなことを考える自分は、つくづくはまってしまっていると自覚する。誰にも悟られなければ、照れもしない事実だけれど。
 んー・・・。でも、やっぱ何か違うなぁー。初対面の時は、もっと髪も服装も乱れてた気が・・・するのは殴られたからだろうか。
 そんなことを思っていたら、彼女が足を止め、渋々といった感じで振り返った。考え事をしていた俺は、ワンテンポ遅れて彼女と目が合う。
「? 何?」
 口を尖らせたまま何も言わないので、そう聞いてみると、彼女はぷくっとした頬をそのままにして隣にやってきた。そして、肩で俺を押すと、歩き始めた俺の隣を歩き始める。
 何だ何だと思いながら横を見ると、まだほっぺたを膨らませたまま前を睨んでいる庶民が居た。そのほっぺたを突っついてプシュッとしたい気分にかられたが、やったら殴られそうな気がしたのでやめておいた。そんな気分になったのは、多分服装と場所のせいだと思うけど。
 それにしても、一体何なんだ。マジマジとその横顔を見ても、彼女は一向にこっちを見ようとはしない。意地を張ったように前を向いている。
「・・・・・・何か付いてるー?」
 しかしややあって、彼女が視線だけ上に向けて呟いた。やっぱり気付いていたようだ。怪訝そうな、俺の視線に。
「いや。付いてないけど・・・」
「付いてないけど、何よ」
 更に頬を膨らませた彼女は、責めるようにそう呟いた。それが照れ隠しに近い物だと言うことは、多分初対面の人間でも分かるだろう。怒られたことに対してはちゃんと謝罪したくせに、全てが元に戻らない状況に不安を覚えているのかもしれない。それとも無ければ謝罪を口にしなければならなかった自分の不用意な発言を恥じているのか。容易く幾らでもその行動の理由を見付け出せるほどに彼女は分かり易い。
 そしてもしかしたら。と、そのせいで過多な想像までしてしまう。
 勘ぐるならば、自分の心配をしたのかもしれない、と。
 視界の中に入らない、慣れない場所にいる自分を案じてくれた・・・のかもしれない。そう思うのは、彼女の分かり易いが故に、返って勘ぐってしまう行動のせいか。それとも、自分の自惚れなのか。
 どちらにしても、この状況だったら、多分。
 後から思えば、からかうことも出来た。もしくは、いたずらにこの状況を引き延ばして彼女を困らせることもできた。
 だけど俺が自然にとった行動は、何でもない以下の通り。
「何でもないよ」
 そう言って笑顔を作る。それは彼女の行動に、どの理由も微笑ましいと思ってしまった当たり前の仕草だった。
 やけに自然で、そして無意識のうちに終わってしまった仕草。そして何でもない、通り過ぎていくだけの事になるはずだった。
「・・・」
 しかし対して彼女は、それが一番困ったかのように頬を赤くして元に戻す。そしてそれを隠すように、うつむいたまま、ほんの僅かに歩を緩めた。
 それを見て、思わず口角を持ち上げてしまった俺は、やっぱりどうしようもなく彼女に惹かれているらしいと改めて自覚する。意地を張らなくても、駆け引きをしなくても。何も無い事がこんなに楽しいと思えるなんて。
 そう思わせてくれるほど、彼女は素直で純粋だと思う。欲がないからこそ、余計に何かを与えてやりたいと思うこの気持ちは、一体何なんだろう。力があっても金があっても、この国で一番の地位にいても、彼女の前では無力な自分を嬉しくも悲しくも思う。
 彼女の生家に向かいながら。それを楽しみに思いながら。
 急に、そこに帰したくないと強く思った矛盾を持て余した。自分には帰らなければならない場所があるから。そして例え我が儘であっても、彼女も必ず連れて帰るから。連れて帰りたいから。
 そんなことを思うと、僅かに足が重くなった。それを彼女は望んでくれるだろうか。家に帰ってしまったら、帰りたくないと思うかもしれない。それでも連れて帰るなら、その彼女を、どうしたら俺は幸せに出来るんだろう。考えてもどうしようもないことを、思う。答など分からないことを、考える。彼女にとって大切な物が、地位や名誉じゃないから余計に不安になる。そんなもので繋がっていても、何の意味もないのは分かっているけれど。

 彼女が家に帰りたい理由は何なんだろう。ふと、もっと引っ掛かっていて良いはずの疑問が頭に浮かんだ。それは自分が同行する事になって影を潜めていたけれど。
 間違いなく、ポストや冷蔵庫や戸締まりの心配などではないはずだ。それに多分、一人で抜け出すことに成功していたとしても、ちゃんと戻ってくる・・・気は、あったはずだ。・・・多分・・・あくまでも、多分。
 そうと仮定して、だとしたら、何だろう。例えば・・・家を離れても、自分の側に置いておきたい、何か? それともなければ、誰かとの約束? あとは・・・。

 ・・・まあ、それは追々ハッキリするだろう。と、俺は早々考えるのを止めた。それよりも、今はこの束の間のデートを楽しむとしよう。せっかく二人でいられるのだから。
 そして、帰りは彼女の手を取って戻ってこよう。彼女が不安もなく、不満もなく、その手を取ってくれることを信じて手を差し伸べよう。
 生まれ育った街から別の場所へ導く、この手を。


 気が付くと、黙ってしまった俺を、頬の熱の冷めた彼女は不思議そうな顔をして見上げていた。
 その彼女に微笑んでから、あえて俺は前を向く。彼女を見ていたら、その手を取ってしまいそうだったから。答を聞くわけでもなく、触れてしまいそうだったから。けれど自分が導くのは今じゃない。確かめるのは今じゃない。

 彼女の手に触れるのは。
 答を確かめるのは、もう少しだけ我慢、だ。


王子と庶民、城下町へ。
書いていただいたイラストを元に、王子視点で閑話を書いてみました。
火夜飛電さん。素敵なイラスト、どうも有り難うございました!!!




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