硝子の靴を履いたばっかりに(それを壊したばっかりに?)城に連れてこられた庶民なヒロイン。
手強い爺さん、群れるメイド。超非常識王子、エトセトラ。出るわ、出るわ、変な人。
こんな場所で大人しくしている彼女・・・なら話はそこで終わり、王子も汚れにならずに済んだ?
お互い、あり得ないほどに非常識な庶民と王子の、ラブになるかもしれないコメディ。
 5、庶民と王子と庶民は語る。

「そ、それで・・・」
 何故かあたしとリスが隣に座り、面接のように向かいに座ったルルは、真っ赤な顔をしてカチンコチンの体を居心地悪そうに僅かに揺らした。そして「な、何で、こんな訳のわかんないことになってるの? ど、どうしてあたしこんな・・・」と、段々自分の世界に籠もり始める。
「ルル、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃないわよ! 大丈夫な訳無いでしょ!? あー。申し訳有りません!」
 あたしに怒り、リスに詫び、彼女は頭を抱えて机に突っ伏した。それ程の衝撃があるのか? リスがいるだけで? お? ということは?
「あーあ。リスのせいだーリスのせいだー。いーけないんだ、いけないんだー」
「あんたのせいよ! ひーっ申し訳有りませんーっ」
「・・・あほ。可哀想だろ」
 いや・・・ほら、あれだ。これはその、ルルの緊張をね。取り除いて上げようという、あたしの友情であって。そう、呆れ顔のリスに言い訳。
「・・・まあ、お茶でも飲んで」
 ちくしょう。こういうところはスルーしてくれないのね。そう思いながらルルの前のカップを押した。「い、いただきます」と、さっきの粗相にもガチガチになっているルルは、助かったとばかりにそれを手に取る。震える手でやっと持ち上げ、そして一口、口に含んだ。
「あ、美味し・・・」
 そりゃそうだ。ルルがそう呟いたのを聞いて、あたしは当たり前だと思う。持ってきたのは王城の最高級品なんだから。そう言ったら、またルルはどうにかなってしまうだろうから、そんなことは言わないけれど。
「・・・で・・・」
 その香りに落ち着いたのか、ルルは改めてあたし達二人を見て、深呼吸をしてから言う。
「あのー・・・何がその・・・どうなってるわけ?」
「・・・」
 何がどうと言われてもねぇ・・・。どう説明したらいいのやら。正直に言うと「ある日いきなりガラスの靴を持った爺さんが現れ、それを履けと言うから履いたら城に連れていかれ(兵をけっ飛ばしたとか靴を壊したなどの細かいことは言いっこなし)まあゴタゴタあって(殴ったり刺されたり噛みついたり暴れたりしたなどの細かいことは言いっこなし)結局、王子とお付き合いすることになりました・・・」と。うーん。改めて整理してみると、あたしにも何が何だか。さて、どうしたもんだろう。
 という思考の末、リスの顔を見たが、何を迷っているのか分からないという顔である。彼にはもう少し、年頃の娘の心境や照れという感情を覚えて貰いたい。
「うーん・・・あ、そうだ。その前に質問しても良い?」
 困ったなぁ。どうしたもんかなぁー。どう説明すればいいのかなぁー。
 と思っていたあたしの中に、唐突だが小さな疑問が生まれた。是非とも彼女に聞いておきたいことが、一つ。全てを話す、その前に。
「? 何?」
 カップで遊びながら聞き返したルルと、不思議そうな顔をしているリスの視線の先。あたしは、これが分かっていたら、もしかしたら人生が変わっていたかも知れないなぁと思う、ある疑問を口にする。
「ルルはさぁ。リス・・・じゃなかった。ええと、クリス? ロット? 王子?」
 何で王子まで疑問文なんだよ。というリスの小さな突っ込みは無視無視。
「のさ。家族構成は知ってる?」
「は?」
 ルルはそう言って、肩を竦めてリスを見た。失礼なことを言ったらどうしようみたいな躊躇いが僅かにあったが、手を膝の上に置いて改まった状態で彼女は応える。
「現国王様と、その奥様のお后様と、お子様のシュリア様とクリスロット様・・・」
 すらすらと出てきたその回答は、簡潔にして完璧。というか、彼女の言い方を聞いていると常識だとすら思えてくる。あー。そうなんだ。シュリアのことも知ってるんだ。へぇー。すごいな。ルル。
「・・・ほほう。なるほど・・・」
 と思い、あたしは肩を落とした。それを知っている彼女だったら、あたしと同じ道は歩まなかったのかもしれない。いや、きっと間違いなく、何事もなく居るべき場所に戻って来れただろう。
 ・・・とか、大層なことを思うよりも、あたしにとっては「やべー。みんな知ってるものなのか」という脱力感だけ。どうしてよ。どうでもいいことじゃない。とまで思うほど、リスに会うまで、あたしにとってはどうでも良いことだったのになぁー。というか、今でもどうでも良いことだ。なのに何でだー。
「聞くだけ無駄だったな」
 リスが言ったその一言は、ほら見ろ。こうなったことには、お前の責任も有るんだぞ。という、確かな抗議の感情が感じられた。



「ところでお目当ての物は、ちゃんと見付かったの?」
「うん! ばっちり!」
 ルルに何とか説明を終え(お付き合いしています。のところでは、さすがに赤面を隠しきれなかったが、ルルが赤面を通り越して青ざめていたので、それはどうでも良い話になった)彼女が帰ったので、あたし達も城に戻ることにした。戸締まりオッケー。ここをどうするかは、ちょっとの間保留することにして、まずは一安心である。
 そう思っていた、あたしに掛かった言葉。安心と油断で、あたしは正直にそう答えてしまった。
 答えてから。
「・・・あ」
 気付く。リスが、ここにあたしが何をしに来たのか知らなかったということ。思い出した。素早く。でも遅い。
「い、いや。その」
 まずい。ばれた。
 カマをかけるまでもなく、リスにはきっと分かっていたのだろう。多分、予想していたんだろう。そしてあたしの行動を見て、確信に近い物を感じたんだろう。だから、こんな言い方をしたのだろう。
 しかしそれを、あたしが答えてしまったとなれば、また話は別だ。確実に今、この手の中に「それ」があるんだから。突き詰められたら逃げようがない。どうしよう。まずい。そう思い、逃げるように俯いたあたしにリスの声。
「そう。良かったね」
 聞こえてくるその声は、まるで喜んでくれているかのように明るくて。それ以上、何も降ってくる言葉はなくて。
 やがて怖ず怖ずとリスを見上げると、彼は待っていたように視線が合ってから、笑って言った。
「じゃあ、帰ろう」






 その笑顔を思い出しながら、あたしは部屋に一人。ベッドに腰を掛けて、照明もつけずに夕闇の中にいた。
 リス。
 その言葉を、呟く。彼の名前を、呟くだけで。
 抱きしめた封筒に、力が入った。どうしてだろう。彼を思うだけで、体が痺れる。苦しいほどに、体が変化する。
 リス・・・。
 どうして? と、あの時。問いかけることが、出来なかった。不安と安心が、交互に、同時に、あたしを責めた。
 もう一度、彼の名前を呟いて問いかける。あの時と同じ言葉を、問いかける。どうして? どうして何も、聞かないの? どうして、許してくれるの? 信じてくれるの? あたしのこと。どうして。
 混乱と溢れてくる疑問も、あたしの口を開かせてはくれなかった。ただ彼を、見ていた。隣にいた彼を。手を差し伸べてくれた彼を。その手は、あたしを迎えてくれるように優しくて温かくて。
 その温かさを。ただずっと、感じていた。感じるだけで伝わる物が、その熱にはあった。彼の気持ちは、それ程に明確だった。
 そして迷わず求めた、あたしの気持ちも。きっと。
 あたしは、さっきも開いた封筒を開く。そして一瞬だけ見た中身を、今度は手にとってゆっくりと見つめた。
 どうして・・・?
 涙が溢れてくる。笑顔に。
 無くしてしまったモノに。そして、得たモノに。どうしてこんなにも、全てはあたしに優しいんだろう。
 不思議だね。と、あたしは呟く。
 不思議。こんなにも世界には、大切なモノが沢山あって。こんなにもあたしの中には、感情があって。
 こんなにも彼は、あたしの中に影響しているのね。




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